天使は未来を希(こいねが)う

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命の消滅と引き換えに静寂が訪れる。シオンは銃を捨て、泣きながら震えるリリアのそばに歩み寄る。背の破けたコートを脱いでリリアを包み、その上からそっと抱きしめた。 「リリア……こんなくだらない戦いを終わらせる方法を思いついたよ」 リリアは涙目でシオンを見上げた。 「戦争なんてものは、さっさと負けた方が不幸は少なくて済むはずだ。だから俺は戦いの元凶であるグスタフを倒してくる」 そう言って、闇夜に浮かぶ軍の指令棟を指さした。 「だからここでお別れだ。幸せになれよ」 シオンは命を捨てても戦いを終結させようと覚悟した。けれど、リリアは腕にしがみついてシオンを制止する。 「行かないで! わたし、このくだらない世界なんて勝手に壊れちゃえばいいって思っている。でも、シオンだけは、絶対にいなくならないでほしい!」 「だけど、俺は黒い天使になってしまった。そうなれば、どこで生きようが戦いに巻き込まれる運命だ」 けれど、どんなに諭しても、リリアは頑として首を縦に振らなかった。 リリアは泣きそうな顔で思いつめた後、「でもさ、ひとつだけふたりとも自由になれる方法があるんだよ」とこぼした。 「まさか心中する気か? だめだ、君は絶対に生きろ!」 「そうじゃないよ。これは軍の機密事項なんだけど――白い天使と黒い天使は、互いに力を律する関係にあるんだって」 指を立て、それぞれの翼を交互に指さした。 「……どういうことだ?」 「司令官って歴代、黒い翼を持つ天使じゃない?」 「ああ、たしかにな」 「でも、その黒い翼の力を失わせることができるのが、白い翼の天使なんだよ。だからグスタフは、わたしたちを支配することで反逆を防いで、自身の地位を安泰にしているんだ」
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