0人が本棚に入れています
本棚に追加
過去か未来か
涼太が砂場セットを持ち、春美を待っている。
涼太が5軒隣の家の方を見ると、春美が笑顔で駆けてくるところだった。
「リョウちゃん、すなば、いこうね」
涼太は笑顔でうなずく。
「あ!」
涼太が手にしている砂場セットを見て、春美が声を上げた。
「わたしの、わすれてた」
「ぼくの、かしてあげるよ」
「やだ。たんじょうびにもらったの、もってくる」
涼太は自分の砂場セットを手から離すと、両手で春美の腕をつかんだ。
「なに?」
「だめだよ」
「どうして?わたしの、もっていくの」
強引に自分の家に行こうとする春美を、涼太は必死に抑える。
「やめてよ」
春美が怒ったように言って、涼太の手を払おうとした。
その時、青い蝶々がひらひらと飛んできて、涼太の家の玄関の横で咲くラベンダーにとまるのが見えた。
「みてみて、ハルちゃん。あおいちょうちょ。すごくおおきいよ。きれいだよ。ハルちゃん、ちょうちょ、すき?」
涼太の言葉に、春美は「すき!」と答えて、ラベンダーに近づいた。
「かわいい」
二人で並んで蝶々を見つめている。
意識を失った運転手を乗せた車が突然住宅街に入ってきて、涼太の家から二件隣の家の門柱に突っ込んだのは、その時だった。
もし春美が家にスコップとバケツを取りに戻っていたら、事故に巻き込まれて命を落としていただろう。
きゃあと悲鳴をあげて、春美が涼太に抱きつき、涼太は春美の背中を一生懸命さすった。
最初のコメントを投稿しよう!