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大天使
大天使ガブリエルは、階段を降りながらため息をついた。
気が進まない…幼子の魂を天国に届けるのは。
眼下には事故を起こした車と、人だかり。
ガブリエルは、そこに迎えに来たはずの幼子の魂がないことに、すぐに気がついた。
首を傾げながら、衣から白い紙を取り出す。
紙は真っ白。何も書かれていない。
「どなたですか?こんな悪戯をしたのは?ゼウス?いや、ヴィーナスですか?」
と、ガブリエルは上に向かって叫び、持っていた白い紙を破って捨てた。紙は溶けるように空中で消えた。
ふと視線を感じて、ガブリエルは眼下を見下ろした。
小さな男の子が女の子を抱きしめながら、ガブリエルを睨むように見つめている。
私が見えるのか…ガブリエルは驚いたが、すぐに口元を緩めた。
「なるほど。私でしたか、こんな悪戯をしたのは」
幼子二人を包んでいる金色の輪と、青い蝶々がもうすぐ消えようとしている。
「神にお説教されるかもしれませんね…」
ガブリエルは微笑みながら、階段を登っていった。
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