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比翼の天使
「もう少しだ! 頑張ってくれ!!」
男性がお腹が大きくなった女性の手を握る。実際に辛いのは女性だが、男性の額にも汗がにじんでいた。
「う、ううっ!!」
女性が力むと、赤子が生まれた。
「お疲れ様。双子だよ」
「ええ、そっくりな女の子ね」
その双子は両親に愛され、仲良く育った。しかし、十年もたった時、困ったことが起こった。
「お母さん、なんだか肩が痛い」
「私も」
「まあ、ファスもセカも? 流行り病かしら、お医者様に診てもらわなくちゃ」
「う〜ん……なにかしこりのようなものがありますが、こんな症状は見たことがない。現状では痛み止めを処方しての様子見しかないかと……」
「そうですか……」
数日経った夜のこと、二人は揃って熱を出しました。
「ああ、ファス、セカ! 死なないで!!」
子供が流行病で死ぬことも珍しくありません。父は夜道を走って医者を呼びに行きました。
「ただいま! お医者様を連れてきたよ!!」
「どうか、どうか助けてください!」
医者はファスの右肩と、セカの左肩を診ました。
「なにか、動いてる……」
「寄生虫か!?」
「いや、まるで、卵から孵るようなーー」
医者が言い終わるよりも早く、ファスの右肩、セカの左肩から皮膚が破け、腕の長さ程もある純白の羽が生えました。
「……天使」
「せ、先生……とにかく、処置を」
「え、ええ……とりあえずこのままでは不衛生なので、羽を洗いましょうか」
桶にお湯を汲み、羽についた血や油を洗い落とし、櫛で羽毛をとかしていきます。
ファスもセカも、気持ちがいいのか、羽がピクピクと動きます。
(羽と身体の動きがリンクしている。流行りこれは……)
「先生、これはどういった症状なのでしょうか?」
「医者は汗のにじむ額にハンカチを当てながら、両親に言う。
「こんな症状は私も診たことがありません。ですが、寄生虫や病気ではないと思います。あの羽は双子の動きにリンクしていた。つまり、二人から生えてきたわけです」
不安そうにする父の手を、母が握りました。
「いいじゃない。羽が生えてたって。あの子たちは間違いなく私がお腹を痛めて産んだわ」
明るく振る舞う母の姿を見て、父も元気を取り戻します。
「ああ、そうだな。むしろめでたいじゃないか。天使かもしれん」
しかし、奇妙であることに変わりはありません。両親は、ファスとセカを連れて、村長会いに行くことにしました。
二人の翼を見るなり、村長はついていた杖を落とし、腰が抜けてしまいました。
「忌み子じゃ! 祟りが起きる!!」
「村長、何をーー」
父が村長を宥めますが、騒ぎが大きくなって、人が集まってしまいました。
「よいか、堕天使となったルシファーは、神に背いた罰として、片翼を焼かれたのじゃ」
「そんな、だからって、罪のない子供を殺せと?」
村長にも迷いがあるのか、言い淀んでしまいます。
「少なくとも、村に置いておく訳にはいかん。今晩中に出て行きなさい」
「「そんな!!」
ファスとセカは、自分たちのせいで両親が困っているのを察しました。
二人は手を繋ぎ、羽を羽ばたかせると、空に向かって飛び立ちました。
「ああ、そんな!」
「ファス! セカ! 戻っておいで!!」
両親の方を笑顔で振り返り、二人は幸せそうに手を振るのでした。
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