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二つ先の家に住んでいた天音ちゃんは、同じ通学班で唯一の同い年の女の子だった。
僕と天音ちゃんが特別に仲がよかったわけじゃないけど、母同士は仲がよかった。
だからなんだろうとはわかっている。
それでも、僕がいじめられている時に、変わらない態度で僕に接してくれたことには、救われたんだ。
「直くん」と呼び続けてくれたこと。
周りが太っていた僕に触ったらデブになると、「ナオキン(直菌)」と言っていた中、天音ちゃんだけが僕を名前で呼んだ。
ただそれだけのことで、僕は天音ちゃんを天使だと思った。
いじめられている中で、天が使いに出してくれたのが天音ちゃんなのだと、信じて疑わなかった。
僕らが高校生になった時、僕の世界の天使である天音ちゃんは、僕の知らないところで僕の知らない奴に余計なことを吹き込まれてしまった。
そこから天音ちゃんは容姿をひどく気にするようになり、摂食障害になったと聞いた。
他校のそんな奴から天音ちゃんという天使を守りたくて、僕は天音ちゃんの天使になることを誓った。
天音ちゃんに好きだと伝え、恋人になって、僕の言うことを信じてくれればいい。と思った。
抱いていた大きな恋心を天音ちゃんに言うと、彼女は喜んでくれた。
だけど、天音ちゃんは僕の恋心の大きさを嬉しく思っていたのであって、恋心の中身を受け取ってくれたわけではなかった。
僕が「ありのままの天音ちゃんでいい」と言うと、彼女は否定した。
「生きるには。生きるには、痩せてなきゃ、かわいくなきゃ、美しくなきゃ」
特級の呪文だった。
「直くんだって、私がかわいくなったから告白してきたんでしょ」
そうじゃない。
でも証明できなかった。
天音ちゃんが摂食障害になってから告白したのは事実だから。
彼女の言うとおり、肯定しているみたいになってしまった。
「……そんなんじゃ、死んじゃうよ」
まさかこの瞬間、僕が天音ちゃんの天使になるとは思いもしなかった。
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