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隣で眠る天音ちゃんに、小学生のころの面影はどこにもない。見た目はすべて変わってしまった。
小さな目も、一重も。
低く潰れたような鼻も。
たらこ唇も。
健康的に焼けた肌も。
もちもちとぽっちゃりした手足も。
みんなみんな僕の知らない誰かさんのせいでなくなってしまった。
いや、天音ちゃん自身で消したのか。
高校生から五年間。ここまでの見た目になるのに、どれだけのお金を使ったんだろう。
どうやって稼いだんだろう。
安楽死シロップだといたずらっ子のように笑って見せた特殊で強力な麻酔薬は、どうやって手に入れたのだろう。
僕は天に戻ろうとする天音ちゃんをもちろん止めた。
そんな僕を天音ちゃんは拒否した。
「私のことを本当に好きなら、本当に愛してるなら、私を止めないでよ」
僕は天音ちゃんに僕を信じてほしかった。
僕を救ってくれたように、僕にとって天音ちゃんが天使だったように。
ちゃんと天音ちゃんの天使になりたかった。
僕が描く理想の天使と、天音ちゃんが求める天使は違った。
天音ちゃんは最期を看取ってくれる天使を求めていた。
僕はそんな天使になった。
天音ちゃんは僕に、
「直くん、ありがとう。私は私のこと愛せなくなったのに、直くんは愛してくれて」
と最後の力を振り絞るように強く僕の手を握って、言ってくれたんだ。
天音ちゃん、天音ちゃん、天音ちゃん──
冷たくなった彼女の左手が温かくなるように、右手にぎゅっと力を込める。
でも、彼女は何の反応も示さない。
僕の世界の天使が永遠に眠ってしまった。
守りたかった、救いたかった。
もっとずっと、そばにいたかった。
サイレンの音がけたたましくなってきた。
ねえ、天音ちゃん。
僕はどうしたらいい?
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