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地区予選
当日は選手の家族や地元のOBなどが応援に駆けつけて、市民体育館は熱気を帯びていた。対戦は去年2回戦で競り負けた私立校だ。
最近の対戦成績は拮抗している。ほぼ互角の戦いだが、今年は飛騨がレギュラーなのでうちが勝つに決まっている。僕はそう確信していた。
両校の応援合戦のあとにティップオフのボールが投げられた。
飛騨は胸に青い2本の横線が入った白のユニフォームが似合っている。誰よりも凛々しく、誰よりもカッコいい。
飛騨の手を離れたボールは寸分の狂いなくゴールリングに吸い込まれる。華麗な3Pシュートも面白いように決まった。得意の柔らかいタッチのティアドロップが決まると、会場は彼の独壇場と化した。うねりのような声援が轟いて飛騨を突き動かしている。その調子だ。そのまま行け。
何としてもシュートを食い止めようと相手は躍起になってくる。ディフェンスのファウルで飛騨にフリースローが与えられた。落ち着いて決めると3Q(スリー・クォータ)が終わった時点で18点差になった。この差があれば安泰とまではいかなくとも、相手が諦めるラインに近づく。
そしてリバウンドを奪い取った味方のパスを受け、飛騨がゴール目がけて僕の前を駆け抜けた。
次の瞬間に時が止まったように館内が静まり返った。飛騨がドリブルの途中で膝から崩れ折れた。そのまま床にもんどり打って倒れる。
誰もが状況を把握できずに、倒れた彼を注視した。足首を掴み顔を歪める彼に数人が駆け寄った。声を掛けるが立ち上がることは出来ない。
しばらくすると救護要員が担架で飛騨を運んで行った。
館内がざわついて、試合どころではなくなった。
応援席では涙を流している女子もいる。自分で立つことが出来なかったのは重傷なのか。飛騨が心配で気が気ではない。僕は走った。
救護室の前には人だかりが出来ている。関係者でもない僕が立ち入る隙もない。少しでも現状が知りたかった。飛騨の顔が見たい。
血の気のないコーチの顔色からして軽傷ではないはずだ。
一目でも会って「大丈夫か」と声を掛けたい。
しばらく狼狽えて右往左往していたら気分が悪くなった。その場にしゃがみ込んでいたら救護室のドアが開いた。
飛騨だ、部員の肩に支えられて、浮かした右足首には痛々しく包帯が巻かれている。
「飛騨!」
「新庄、ごめんな……せっかく見に来てくれたのに、このザマだ、情けないな」
いつもの張った声ではなかった。
「謝ることなんてない。お前はいつでもカッコいい」
情けないを否定してやるつもりがヘンな言い方になった。
「なんだ、それ」
飛騨が下を向いてクスっと笑った。
「良かった。もっと凹んでると思った」
「そうだな。弱気はダメだ。俺はいつだってお前のヒーローでいなくちゃな、忘れるとこだった。惚れられるのも大変だ」
「へっ⁈」
声が裏返った。
両肩を支えてる下級生の部員も、目の前にいる僕を今更ながら
だれ という風に直視している。
誰に惚れられているだって?まさか、この人が恋人⁈
そこまで考えてはいないと思うが
「惚れた」の単語が引っかかっているのは確かだ。
そして一番⁇なのが僕である。もしかして、この気持ちバレてるのか⁈
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