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飛騨由樹
三人兄弟の真ん中で、のんびり育った。
真面目で器用で頭脳明晰な兄貴と、勉強はできなくても明るくて友人が多く要領の良い弟に挟まれている次男だ。
自分で自身を分析すると、陽キャでも陰キャでもない中途半端な立ち位置なのは両極端な兄弟のせいかもしれない。
周りが笑えば大して可笑しくもないのに笑う。みんなが怒っているなら僕も怒ってみせる。みんなが右に向けば興味がなくても右に向く。つまり主体性はゼロで、その他大勢にも入れてもらえないオマケみたいなものだ。
オマケといっても一部のマニアに珍重される付加価値のあるものではなく、こんなのいらねぇーとゴミ箱に直行のほうだ。がらくた扱いでゴミ扱い。だったら最初から付けなきゃいいのに。
たぶん家族で外食に行きテーブルに着いたところで、誰かひとりいないと気づく程度の存在感。家族だってそうなのだから、学校では透明人間以下で教室の掃除のときは箒が勝手に動いている魔法学校を想像してほしい。
さっきの数学の授業中に重大な事実に気づいてしまい、危うく涙が零れそうになった。もう二学期になるのに、クラスメートにまだ一度も名前で呼ばれたことがない。でもいじめの対象になってないだけ、マシかと気分を立て直す。ああ、今日も一日何事もなく終わった。
「えーと、えーーーなんだっけ?…おまえ」
わからないんだったら最初からおまえでいいよ。
辛うじて呑み込んだ落涙に追い打ちをかけるなよ、泣くぞここで。
「掃除当番、替わってくんねぇ↺」と語尾を上げて、いかにも他に選択肢があるように言うけど、僕が答えられるのはいいよしかないよね。
「いい…」唯一の答えを言いかけたら、隣の飛騨が口を挟んできた。
「いつと替わるのか、聞いとけよ」
カバンに乱暴に教科書を放り込みながら、ぶっきらぼうに言う。
「えっ⁈」「えっ⁈」
変わってくれと頼んできた野崎と一緒にハモってしまった。
「そんなの当たり前だろ、新庄だけが掃除当番じゃないんだから、替わる日をちゃんと聞いとけって言ってるの」
もしかして僕を援護してくれたの?
いつも掃除が日課のようになってる僕を庇ってくれたの?
しかもしかも、飛騨くんが僕の名前を…初めて呼んでくれた。本当に泣きそう。
僕の名前、知ってたんだね、嬉しい。
飛騨由樹、バスケットボール部のエースで男女を問わず学校中の人気者で、プロのスカウトが練習試合を見に来るほどの実力者だ。
席が隣なので、彼の高からず低からずのスーと通った鼻筋の横顔を飽きずに見ている。凛々しいユニホーム姿もいいが、学生服の紺のブレザーがすごく似合っていて、チラっと上目遣いで黒板を見る彼が好きだ。
そう、僕は飛騨に恋してる。
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