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秘めた思い
僕がこれまで好きになったのは、すべて男だった。
初恋は幼稚園で唯一の男性教諭だったマコト先生だ。
いくら女の先生に優しくされても嬉しくなかった。マコト先生が休みだとこの世の終わりのような気がして泣いて他の先生を困らせた。
マコト先生の声、笑顔、歌やオルガンを弾く姿までが脳裏に焼き付いている。いまから思うとゲイ体質は生まれつきだったように思う。
家族は至ってノーマルで、兄にも中学生の弟にも彼女がいる。
一度、弟に男を好きになったことがあるか聞いたことがある。弟は男は女しか好きにならないよと言った。ついでに、そんな質問をするなんて頭がおかしくなったの、とまで言われた。
自分でも、そう思った時期がある。これは隠さなくてはいけない病気なのだと思い悩んだ。宅急便のお兄さん、コンビニのレジの人、汗を迸りながら肉体労働に勤しむ土木作業員。キュンとするのは、いつも男だ。
今日も隣りの飛騨に見惚れていて、現国の先生に指を差されて注意された。
「おい、一番後ろのボケっとしてるの、おまえだよ、おまえ。授業中だぞ、隣のイケメンじゃなく、こっちの黒板を見なさい。此処は試験に出るからな」なんて言われてドギマギした。
クラス中がドッと沸いたのに、飛騨だけが笑っていなくて心臓がチクンとする。いつも先生の冗談に大きな口を開けて笑っているだろ。おまえも笑えよ。
この気持ちは世界中の誰もが知っていても、飛騨にだけは知られたくない。
アイツの口からキモっなんて言葉を聞いたら、この場で窓から飛び降りてやる。こっちを見なくてもいい。ただ、同じ空気を吸って同じ時間を共有して、卒業時には同級生として一緒のアルバムに載る、それだけでいい。
そんな儚い願いは見事に打ち砕かれた。
授業が終わって帰り支度をしているときである。
「おまえさぁ、俺のこと好きなの?」
飛騨の直球に返す言葉もなく立ち尽くした。
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