つまみ食い

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つまみ食い

 僕の飛騨への思いは恋だ。それは日に日に大きく育っていく。  隠さなくてはいけない、そう思うほどに隠しようがなくなっていく。  きっと飛騨にも迷惑だし…いや、それより嫌われたらと思うといたたまれなくなる。これ以上、大きくしてはいけない。    僕にとっても彼にとっても、この思いは育ててはいけないものだ。  指を絡めて男女のカップルが通り過ぎる。みんなが幸せになるんだよと、心の中でエールを送るに違いない。でも男同士だったらどうだろう。お幸せになんて思うだろうか。世の中がそうである以上、僕が飛騨に告白することはない。  惚れた腫れたなんて、ほんのジョークに決まっている。  真意を質すなんて愚の骨頂だ。笑い(グサ)だ。  地区予選は飛騨が離脱した後も奇跡のように勝ち上がった。後は決勝戦を残すのみだ、飛騨が復帰するのを誰もが待ち望んでいた。悪化した足首も順調に回復してるようだった。    そんなある日、センセーショナルな見出しが週刊誌に踊った。  『人気のアナウンサーが未成年の〇〇をつまみ食い』    相手が未成年なので伏字になってるが、読み進めると明らかに正体がバレる書き方をしている。撮られた写真も目のあたりにモザイクが掛かっているが、見る人が見ればわかるはずだ。    を武器にしている可愛い系のアナウンサーは、スポーツ番組のインタビュー担当で、今までも数多くのスポーツ選手と噂が立っている。    まさか、飛騨が餌食にされたのか。    登校するとその噂で持ちきりだった。教室の其処かしこで飛騨の名前が飛び交っている。僕は彼が疲弊してないか心配だった。朝練でここにはいないが、そこでも好奇な視線に晒されているに違いない。    ガラッとドアが開いて飛騨が顔をのぞかせると、わざとらしく話の輪が解けた。口々におはようの挨拶は交わすが白々しい空気は否めなかった。 「おはよう」いつもは飛騨からなのに、今日は僕から声を掛けた。ヘンに思わなかったか顔色を窺ってみる。 「ああ」椅子を思いっきり引いて、ドカンと座る。  やはり元気がない。いつもの飛騨じゃない。  しばらく様子を見ていたが、目線が一点を見つめたまま動かない。 「アレ本当と思うか?」  アレで見当がつくと思っている。実際つくのだが。 「週刊誌ネタだろ、誰も本当だと思ってないよ」 「お前はどうなんだ、どう思ってる?」 「嘘だと思ってるよ。僕は信じてるよ、飛騨のこと」 「信じてるって、まるで恋人が言うみたいな言い方だな」 「うぐっ、―」  飛騨は静かに目を瞑って、授業中もずっと寝たままだった。  やっぱり疲れてるんだ、こんな大事な時にくだらない記事を書いた出版社に放火してやろうかと思うくらい腹立たしかった。
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