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早く言えよ
週刊誌の記事が出てから、執拗な記者たちの取材攻勢に生徒の保護者からも抗議が来た。それに対する学校からの対応が発表された。
将来有望な生徒に降りかかった窮状を看過することは出来ない。大切なご子息ご息女を預かる立場として、ここは抗議の意思をもって提訴に踏み切ることにした。
記事には校名がわかるような記述もあり、学校としては名誉棄損という判断だ。
学校側は訴訟に至った事由を含めて記者会見をする運びとなった。スキャンダル好きのマスコミが、大勢つめかけ大変な騒ぎとなることは目に見えていた。
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話があると飛騨に呼び出されたのは、記者会見の前日だった。
飛騨は神妙な面持ちで待ち合わせの公園の前で立っている。
近づくと、ゆっくりこちらに顔を向けた。
「ごめんな、目立たない方がいいと思って…こんなとこで」
「全然平気、人がいない方が落ち着くよね」
「あのさ、あの……、えーと……新庄は俺のこと好きだろ」
珍しく言い淀みながらも相変わらずの直球だ。
だったら、僕も直球で返す。
「うん、飛騨が好きだ。ずっと前からずっと好きだ」
「ああ…それだけ確認したかった」
「どういうこと?」
「 お前のことが気になる。気になって仕方がない。
それがLIKEなのかLOVEなのか知りたかった。
いま、お前が好きって言ってくれた時、心臓が跳ねた、
これがLOVEなんだな 」
なんだよ、それ⁈
⊶------------------------⊶
翌日の会見は質疑応答はなく、抗議と提訴に至った経緯が簡単に説明された。
「これで、以上です」
集まったマスコミの連中が呆気なく幕引きを図る校長に食い下がっている。
そこに、飛騨が現れた。
マイクなどが設えられたテーブルに手を置いて、
「ちょっといいですか」と断りを入れるとゆっくりと話し始めた。
生放送なのでモザイクは入れられない状況でも、彼は堂々としていた。
その真剣な眼差しに気圧されて、手で遮ってはいるものの、止めるものはいなかった。
「僕には好きな人がいます。それはアナウンサーの○○さんではありません。○○さんとは番組のインタビューの後にスタッフと一緒に食事をしただけです。記事に書かれていたことは全てでっち上げです。あんなことを書かれて、彼に誤解されるのは困ります。事実じゃないことを公表して謝罪してください。僕の願いはそれだけです」
言い終えると静まりかえった会場が一瞬にしてごった返した。足早に会場を後にする飛騨に無数のフラッシュが追いかける。
「だろうな、相手は高校生だぞ。好き勝手に書く方も書く方だぜ。顔まで晒されて、わざわざ会見までして気の毒にって思うよ。まっ俺たちもそれでメシ食ってるんだから、偉そうなことは言えねぇけど」
「おい…、そんなことより、いまカレって言わなかったか、俺の聞き間違いか?」
「ああ、そういえば言ったような、いや確かに言ったな」
「やばいよ、ヤバい、どうなってるんだ。こっちの方が大スクープじゃないか。真相を突き止めないと」
世間はにわかに騒がしい。
だけど僕にはどうでもよかった。
飛騨が誤解されたくなかったカレは僕だ。
公共の電波で、愛の告白をされたのは僕だ。
アイツの好きな人は僕だ。
なんだよ、早く言えよ、どんだけお前を見てきたと思ってるんだ。
耳の後ろのホクロも、困ると爪の先を噛む癖も、授業中ノートにスラムダンクの漫画を描いてることも、みんな知ってるんだ。
その横顔がこっちを振り向くのを、ずっとずっと待ってたんだ。
お前の愛が育ってたなら、早く言えよ。
僕たちの関係は、まだ始まったばかり......♡
--------- 完 --------
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