プロローグ2

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プロローグ2

「あ、あのぉ……」 バタバタと痴話喧嘩しているのを数人の人が少し困ったように、遠巻きに囲みながら様子を見ている。 そんな中、一人のお嬢さんが勇気を出して声を掛けてくれた。 「お取り込み中ごめんなさい!英雄王と騎士王の併せですよねっ!お写真撮らせて貰えませんか!!」 手にコンパクトカメラを持ったお嬢さんのお声がけのおかげで、俺たちのバカバカしい喧嘩が止まる。 「もちろん大丈夫ですよ~。ほら、まこ、騎士王らしく格好可愛くポーズ取って♪」 パチンっと慣れた感じのウィンクをし、さっさとポーズを取るマキに小さく溜息を漏らし 「はいはい。適当にポーズは変えていくので、よろしくお願いします」 いつものように軽く挨拶をした後に、俺もライオンボードで出来た剣を携え、キャラになりきってポーズを取る。 数回のシャッター音の後、最初に声を掛けてくれた彼女の撮影が終わり、後ろに並んでいた人が「よろしくお願いします!」と声を掛けてくる。 いつも通りの撮影列が出来、その間何度かポージングを変えながら何枚もの写真を撮られていく。 「はぁ~、今日もいい感じに列ができたねぇ~。やっぱ囲みより、列の方がいっぱい撮影してもらえたぁ〜って、達成感あるよね~」 ペットボトルのお茶を飲み、満足気に声を上げるマキと違い、俺は寝不足からくる疲れからしゃがみ込んだまま立ち上がることもできない。 「ホッント、お前はいつも元気だよな……」 チビチビお茶を飲みながら、栄養補給におにぎりを齧る。 「すっぱうまぁ〜……」 鬼酸っぱいと書かれていた梅のおにぎりが、疲れた体に沁み渡り、疲労を軽減してくれる気がする。 「ホント、まこって可愛い顔してんのに言い方とか中身はオッサンだよね~」 俺のことをオッサン扱いする彼女を恨めしげに睨み付けるも、まだまだ元気溢れるマキは気にした様子が一切なく、ぴょんっと軽やかに立ち上がった。 その瞬間、彼女の足元が眩く光りだし、金色の魔法陣が現れる。 「「えっ!?」」 いきなりのコトに驚き、同時に声を上げる。 二人の脳内に一瞬で思い浮かぶのは、今流行りのネット小説ネタ。 って、それどころじゃないだろ!? 「マキっ!!?」 持っていたおにぎりを落としてしまうのも、そんなことを気にする余裕はなかった。 慌てて立ち上がって、彼女を助けようと咄嗟に手を伸ばす。 よくあるネット小説のネタのように、魔法陣に引き摺り込まれるっていうのを阻止しようとしたが、何かがおかしい。 マキの手を取った瞬間、なぜかグルリと視界が揺れ、横に重力を感じる。 「えっ……?」 彼女の足を重心にぐるりと半回転させられ、彼女は魔法陣の外に華麗に降り立ち、替わりに俺が魔法陣の中心に転けるように尻もちをついていた。 「マ、マキーっ!!?」 テヘペロっと言いたげに、可愛く舌を出してウィンクをし、自分の頭をコツンと叩いている彼女。 それが最後に見た現世での景色だった。 たくさんの人たちが居たはずなのに、俺の叫び声は虚しく響きわたるも誰も気にした様子はない。 ただ、魔法陣の中心が再度光と同時に、ポチャンッと水にでも吸い込まれるように落ちた。 助けを求めるように、伸ばした手は、虚しくも空を掴むだけだった。
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