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俺は今、天使と暮らしている。
ものすごく可愛い天使だ。
長いまつ毛に大きな目、赤みを帯びた小さめの唇、頬は白桃のようにふんわりと丸い。
男にしては華奢な身体は軽々と背負えてしまって、ほんとに天使みたいだ。
0歳で出会った、初恋の幼馴染み、晴流。
理由あってうちに、俺の部屋に下宿することになった。
その晴流は今、俺の腕の中で眠っている。
怖がりなんだからホラー映画なんか観なきゃいいのに。
高1の夏休み最終日、「夏っぽいことしたい」とか言って配信でホラー映画を観た。
その日から、なんだかんだで毎日こうして抱き合って眠っている。
俺たちは恋人同士じゃないのに
俺はこいつが大好きだけど
可愛らしいこの天使は、俺に抱きついてきながら「亜揮だいすき」とか言ってくる。
すごく嬉しくて、同じだけ苦しい。
天使の紡ぐ「だいすき」と俺の言う「大好き」は同じじゃないから。
同じ音を発していても、俺たちは通じ合えない。
天使にヒトの言葉は伝わらない。
それでも言いたいんだ。
俺の腕の中で眠る晴流に。
「……大好きだよ」
眠っている相手に、しかも理解されない言葉を囁いてどうするんだろうな、と苦い笑いが込み上げてきた。
「……ん……」
晴流がもぞっと動いて、俺に擦り寄ってくる。
「…ぎゅう…して……?」
「……っ」
掠れた声で言われて一気に体温が上がった。
闇に慣れた目で、長く濃いまつ毛に縁取られた目がしっかりと閉じられているのを確認し、ドキドキと鳴る心音に邪魔されながら規則正しい寝息を聞き取った。
…寝言……か
どんな夢見てんだよ
知らずため息をつきながら、望み通りその華奢な身体を抱きしめてやる。
「んー……、ふふ……っ」
眠りながら笑った晴流が俺をぎゅうっと抱きしめ返した。
Tシャツ越しに寝息がかかって肩口が温かい。
なあ晴流、お前にとって俺は何?
もう何度目か分からない問いを心の中で呟く。
すやすやと眠っている晴流の細い身体を抱きしめて、髪にそっとキスをした。
安心しきって寝てるけど、俺、お前のこと好きなんだぞ?
キスしたい、とか、抱きたい、とか、ずっと思ってるんだぞ?
俺の身体に細い腕を回してしっかりと抱きついてきている晴流を、さらにぎゅっと抱き寄せた。
なあ、俺と恋をしようよ
俺と恋人同士になろうよ
好きなんだよ、お前のことが
腕の中の晴流は、相変わらずぐっすりと眠っている。
まだ眠りたくない。
もう少し、この天使のように可愛らしい寝顔を見ていたい。
けれど抱きしめた晴流の温かい体温と、規則正しく甘い寝息が俺の意識を徐々に溶かしていく。
「好きだよ、晴流……」
眠気に抗って、宙に漂うだけの告白を囁いた。
「……ん……」
また晴流がもぞっと動いて、俺に脚を絡めてくる。その軽い圧迫に胸が躍る。
「……あき……、……き…」
え?
今、何て言った? 「亜揮」の後……
「……き」は何の「き」?
ととととっと心臓が跳ねて、スーッと意識が上昇する。
そこで、はたと冷静になった。
バカだなぁ、俺
くっと息を詰めて、ふぅっと吐き出した。
たとえ「好き」だったとしても、それは意味が違うのに……
でも、それでも、ただ友達に言う「好き」だとしても、晴流に言われたら嬉しくなってしまう。
ほんとバカだ
オレンジ色の常夜灯に浮かぶ、晴流のあまり焼けない白い肌。
その滑らかな頬を、指の背でそろりと撫でた。
俺のものになってよ、晴流
何百回何千回願ったか分からない望みを心の中で繰り返しながら俺は、人騒がせな寝言を言う天使をぎゅっと抱きしめて目を閉じた。
了
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