鉄の翼

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鉄の翼

 昼食が終わると、ツバサは最後の仕事にとりかかる。 「それ、なに?」  ツバサが布にくるまれた機械をガチャガチャと弄っていると、横からミソラが覗いてくる。 「これか? 俺が空を飛ぶための道具だよ」  ツバサは今までにないほど幸せそうな顔をした。それを横から見ているミソラも幸せそうな表情を浮かべる。  しばらく会話のない。しかし、心地のよい時間が過ぎる。 「よし、できた!」 「で? また落ちるの?」 「違う! 今度こそ上手く行く!」  二人は倉庫の屋根に登る。布にくるまれた機械も持ってきていた。 「本当にやるの?」 「ああ! 落ちたら救助よろしく!」  そう言っていそいそと布を取り払う。 「で? これが新作?」 「ああ! そうだ!」  そこには、鉄の翼を湛えた、いわゆるジェットパックがあった。  ツバサは素早く背中に装着すると、助走をつけ、勢いよく飛び出した。 「いっけぇえええ!!」  ガキンと音を立てて翼が展開し、エンジンが起動する。  足が地面と接触するギリギリで、ツバサの身体がフワリとした浮遊感に襲われる。 ーーやった!?  上昇しようと腰のレバーを操作する。バゴンという奇妙な爆発音がして、ガタガタと揺れながらツバサの身体が空へ向かう。 「いよーーっしゃあああ!!」 派手にガッツポーズを決めたまま、倉庫の屋根より高く上昇する。 「ちょっと! いきなり高く飛びすぎ!」 「大丈夫だって! ミソラ、空中鬼ごっこしようぜ!」 「調子に乗るな!」  ミソラはバサリと翼をはためかせると、既に倉庫の屋根からかなり離れてしまったツバサを追いかける。 「おいおいどうした? 遅っせえぞ!」  ツバサがミソラを挑発するが、ミソラは気が気ではなかった。 (まったく、一度実験に成功したぐらいで調子に乗って~!)  しかし、仕方ないとも思う。長年、一人で細々と続けてきた実験が実ったのだから。それに、今のツバサは、まるで子供の頃に戻ったような、無邪気な笑みを浮かべていた。  プス! プスプス!  妙な音がして、ツバサの身体が少しづつ落下し始める。 「あれ?」  ボカン!!  爆発音と同時に、ツバサの背中に焼けるような痛みが襲う。 「言わんこっちゃない!!」  ミソラが全速力で救助に向かうが、ツバサの落下の方が速い。 「やっべぇえええ!?」  ツバサもミソラへ手を伸ばすが、少し距離が遠い。 (ミソラが間に合わない以上、自分で助かるしかない!)  ツバサは辺りを見渡す。真下には小屋が見えるが、小屋に落ちたらまず助からないだろう。 (他にはーー!)  きりもみ落下するなか、必死で辺りを見回す。  少し遠くに林、反対側に池があった。 (林か池……どっちが助かる!?)  林は木に引っ掛かれば助かるだろうが、引っ掛からなければ終わりだ。  池は落ちた時点で助かる確率は林より高いだろう。だが、落ちた場所が浅かったり、石が突き出ていたりすれば、終わりだ。 (……池か!!)  ツバサは手足をバタつかせ、少しでも池に近づこうとする。 「間に合ぇえええ!!」  ボチャッァアアン!!  何とか池に突っ込んだのは良いが、今度は背負っているジェットパックが重くて上手く泳げない。 「たーー助けてぇえええ!!」  ツバサが叫んでいると、フワッと身体が軽くなった。 「まったく、情けない声を出して……」  ミソラがジェットパックを持ち上げて岸に引っ張り、ツバサが泳いで岸まで進む。 「いや~上手くいったな!」  ガツン!  ツバサの脳天に拳が降り下ろされる。 「痛っ!?」 「馬鹿じゃないの!? 死にかけたのよ!?」  ツバサはニカッと笑う。 「おまえが助けてくれるだろ?」  それを聞いたミソラの顔が真っ赤に染まる。 「もう……馬鹿っ!!」  ミソラは飛び去っていく。  それを隠れて見ている影が一つ。 「中々面白いことしてるじゃない♪」
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