空に手を伸ばす者たち

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空に手を伸ばす者たち

 実験から数日が経過していた。 「よしっ、これで完成!」  ツバサが嬉しそうに声を上げる。 「完成したの? 例のアレ」 「ああ! 見てくれ!」  そう言って例のジェットパックを見せてくるが、ミソラには何が変わったのかよく分からない。 「どう変わったの?」 「タンクの壁を分厚くして、タンクの容量も増やした。それに、削れるところは削った」 「見た目変わってないじゃん」 「……まあな」  そこで会話が途切れる。 「すみませ~ん」 「あ~はいはい。何でしょうか?」  倉庫の扉を開けると、見たことのない顔があった。 「え~と……どちら様でしょうか?」 「申し遅れました。私の名はタカメ。無翼人政府の長です」 「政府の……長!」  有翼人にも無翼人にも政府はある。といっても、種族をまとめて総意を出すだけで、大きなことはしていないが。 「あなたに少しお話があります」  チラリと後ろのミソラを見る。 「……申し訳ありませんが、そちらの有翼人の方は少し外して下さいませんか?」 「あんた……何者ーー」 「いえ、私は少し出ます。無翼人政府のお話しなのでしょう?」  先述したように、基本的に有翼人と無翼人は仲が悪い。そのため、お互いの政治は、お互いに不干渉というのが決まりごとだ。それに、ミソラは有翼人政府に少しだが顔が利く。無翼人政府としては避けておいて損はない。 「……で、話ってのは?」 「はい。先日あなたの使用していたものを譲って頂けないでしょうか」 (何の事だ? ーー実験の事か! 何で知ってる!?) 「悪いが、あれは売り物じゃない。お引き取り願おう」 「そうですか。では、こういうのはどうでしょう?」  懐から札束を取り出す。 「私はあなたに投資します。もし完成したら、完成品を五十機所望します。報酬はあなたの望むだけ」 「……考えとく」  そう言って倉庫の中に引っ込む。だが、内心気が気ではなかった。 (いくらだアレ!? あんだけあれば間違いなく今より良いものができる!!) 「……分かった。だが、完成するかは分からないぞ?」 「構いません。ですが、今完成しているものだけでも譲って貰えませんか? もちろん代金はお支払いします」 「良いだろう。だが、高いぞ?」 「契約成立、ですね」 「ところで、これのお名前は?」 「そうだな……《鉄の翼》とかどうだ?」 「良い名前です」  場所は変わって、有翼人政府拠点。そこに、五人の有翼人と、五人の無翼人が向かい合って座っていた。無翼人側の中の一人は、タカメだ。 「それで、無翼人ごときが我等有翼人政府と話がしたいとは、何事かね?」 「ちょっと、いいオモチャを手に入れたもので」  そう言って、タカメはスッと手を上げる。すると、鉄の翼を装着した無翼人が十人現れた。 「無翼人風情が! 我々と殺し合おうと言うのか!!」  そう言ってバサリと翼を羽ばたかせ、空へ向かう。鉄の翼を装着した無翼人部隊は後を追う。 「無翼人が我等に空中戦で勝てると思っているのか!」  きりもみ飛行からの急上昇、急降下、自由自在だ。  有翼人は今まで飛び続けてきた。年季が違う。例え、無翼人に本物の翼が生えたとしても、勝ち目はない。  ならば、どう勝つか? 方法は二つある。戦略か、力押しかだ。  戦略なら、地の利、準備、資金、装備などで相手を越えていればいい。そうやって、足りない分の実力差を埋める。  力押しは、数や、力のある個人に頼って、一時の勢いやノリに頼って押しきる。  だが、このとき無翼人はどちらもせずに有翼人に勝った。有翼人が油断していたというのもあるだろう。無翼人は武器を持っていて、有翼人は持っていなかったというのもあるだろう。だが、もしかしたら、鉄の翼は有翼人に勝っていたのかもしれない。 「何なんだこいつら!?」  有翼人の後ろを取った無翼人が槍で突き刺す。 「我々より……速い!?」  また後ろを取られ、一人、また一人と散っていく。 「我々無翼人は、有翼人に対して、宣戦布告する!」  夜空の真ん中、月の中央で、タカメは高らかに言い放った。
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