私が想ったあなた

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私が想ったあなた

 「俺の発明品が……兵器として利用された……?」  それをツバサが知ったのは、有翼人と無翼人の戦争が民間人に公表された後だった。 「はい。どうしますか?」 「どうするもこうするもねぇだろうよ」  ツバサは急いで鉄の翼の用意をする。 「どこに行くつもりですか?」 「……タカメとかいう奴に文句言いに行くんだよ!」 「居場所は分かってるんですか?」 「あいつは無翼人の長だから、おそらく政府官邸だ」 「入る手段は?」 「強行突破」  ミソラはため息をつく。無茶だ。政府官邸は政治上最も重要な場所、言わば心臓部だ。部外者を簡単に入れる訳がない。 「あなたは、無翼人の兵器開発の第一人者として、これから有翼人に狙われます。さらに無翼人の政府官邸を襲撃なんてすれば、無翼人にも狙われることになります」 「だろうな」 「……!!」  ツバサはなにも理解していない、なにもわかっていないとミソラは思った。どちらか一種族に狙われるだけなら、ツバサの技術力なら亡命も可能かもしれない。少なくとも、ミソラは有翼人政府と不仲になってでも庇うつもりだ。だが、有翼人だけでなく、無翼人にも狙われるとなると話は変わってくる。有翼人に亡命するのなら、無翼人に狙われていても問題ないのではないかと思うかもしれないが、敵に狙われている人物をかくまうというのは、自分から懐に爆弾を入れるのと同じだ。自ら進んで危険を背負い込む者はいない。 「あなたは……何もわかっていない!」 「ああ、そうだな。でも、一つだけ確かなことがある」 「……なんですか?」 「俺の発明品を汚し、俺の研究を軽んじ、俺の夢を侮辱したあいつをーー俺は許せねえってことだ!」  そう言って鉄の翼を起動させる。 「感情で行動すれば必ず後で後悔します。それでも……行くというのですか?」 「ああ……」 「今行けば!」  ミソラが声を荒げる。その目からは涙が流れていた。 「……あなたの居場所はもうどこにもないでしょう。命すら落としかねない。それでも……行くというのですか?」 「ああ……」 「……そうですか……」  ミソラはガクリと膝をつく。もう自分にできることはない。こうと決めたら何があっても曲げるような性格ではないことは、一番近くで、一番よく見ていた自分が、一番知っている筈だから。 「それにな、ミソラ」 「……なんですか?」 「例えここがなくなっても、俺の居場所はなくならねぇよ」 「ーー何でそう言いきれるんですか!!」 「俺の居場所は、まだお前がいるだろ?」 「ーーっ!!」  自分は貧乏くじを引いたとミソラは思う。だって、こんなに手間がかかって、こんなに我儘で、こんなに愛しい人を好きになったのだから。 「必ず、帰ってきてくださいーー私という居場所に……!!」 「ああ……行ってくる!」  そう言って飛び立つ。鉄色の翼を背に湛え、自分の夢を守るために。 (夢を失えば、あなたはきっとあなたでなくなってしまう。だから、私の好きなあなたは、きっとーー私が止めても自分を信じて飛び出したあなたが、私の好きなあなたです。だから、ずっと、そのままでいるために、頑張ってください!)  ミソラは膝立ちになり、手を重ね、神に祈った。
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