悪魔が生まれた日

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悪魔が生まれた日

 「これからどうするの?」  ミソラは告げる。戦うための武装は完成しても、実際に一人、もしくは二人で無翼人全員を相手取るのは絶対に不可能だ。 「有翼人政府に交渉を持ちかける」  無翼人から敵と見なされた以上、それしかなかった。 「じゃあ、私が仲介役をーー」 「いや、お前は俺が話したがっていると有翼人の長に伝えるだけでいい」  もし、交渉決裂した場合、ツバサ側についたミソラも一緒に狙われる可能性が高い。 「いいか、俺たちは赤の他人。それで行く。どんなに不利になっても庇うな」 「……分かった」  そう言ってミソラは飛び立つ。有翼人政府にツバサの交渉を伝えるためだろう。 「さて、俺は……」  ツバサはほとんど予備動作なく工具を窓に投げつける。  ガンッ! 「そこにいるのは分かってるぜ? 入ってこいよ」  そう言うと、ドタドタと三人の無翼人が倉庫内に入ってくる。鉄の翼は装着していなかったが、全員が銃を手にしていた。 (政府の追っ手だな……)  ツバサは傍らに置いていた加速剣を手に取り、立ち上がる。 「わっ、我々は無翼人政府の者だ! 貴様を拘束させてもらう! 無駄な抵抗は辞めて武器を捨てろ!」  一人がそう叫ぶが、銃口がガタガタと震えている。 (銃も握ったことのない素人。あくまで見回りに引っ掛かっただけか?) 「悪いが生かして返すわけにはいかない。それと、あんたらーー」  ツバサが加速剣の引き金を引く。その瞬間、爆音がして、加速剣の柄から火花が舞い、ツバサの姿がかき消える。 「遅せえよ」  その声と共に、一人の人間の首が飛ぶ。気が付けば見回り兵の後ろにいて、剣を一振りして首をかき切った。 「なっ、なんだ!」 「普通じゃない! 撃て!」  パパパパァン!!  銃が乱射されるが、ツバサは加速剣の引き金を何回か引くと、すぐにその場から消える。 「ど、どこへ行ーー」 「ここだよ」  また後ろに現れ、もう一人の首を切る。 「な……何者だ貴様!」  最後の一人が狂ったように乱射するが、それより速くツバサが移動し首を切る。 「加速剣は順調」  勝ち誇ろうとしたツバサの腹を、ズキリとした痛みが襲う。 (傷が開いたか……反動が大きすぎるのは改善点だな……)  その場にグッタリとしゃがみこみ、ツバサは加速剣の刃を確認する。普通の剣は、人を二人も切れば刃に血脂がベタベタについて使い物にならなくなる。だが、その刃には血の一滴もついてはいなかった。あまりの剣速に、血すらつかなかったのだ。 (……いいぞ。これで勝てる)  ツバサは加速剣を抱えて、眠りに着いた。
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