彼女が選ぶ最後の色

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 木々の間から差し込む朝の光が、ムランの粗削りな手を優しく包み込んだ。大工の仕事は長年続けてきたもので、その手には無数の傷と硬い皮が刻まれている。彼は今日も忙しく、次の仕事場へと向かう途中だった。  その時、不意に森の中から微かな泣き声が聞こえてきた。ムランは足を止め、耳を澄ませる。風の音とも異なるその声は、どこか不安定で、痛みに満ちていた。 「誰かいるのか?」  ムランは森の奥に向かって声をかけた。返事はない。ただ、沈黙の中に響くかすかな嗚咽だけが答えだった。  彼はためらいながらも一歩踏み出し、声のする方へと進んでいった。  やがて見つけたのは、苔むした地面に倒れ込む一人の少女。薄汚れた白いドレスを身にまとい、その背には不釣り合いなほど大きな翼が広がっていた。  しかし、その翼は異様な色をしていた。九割が黒く染まった羽根、そして一割だけが奇妙に白く光っている。 「天使…なのか?」  ムランは、まるで夢の中にいるような感覚に包まれた。少女の顔は苦悶に歪んでおり、その瞳は不安と恐怖に揺れていた。  彼はゆっくりとその場に跪き、少女に手を差し伸べた。 「大丈夫か?」
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