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違う世界にいる。 夢じゃない。 あ、わたし、そう、 事故…。 魂が離れてしまってるんだ。 体がないの。 でも、見える。 遠く遠くに時がみえる。 何でそんなに遠くにいるの? ない手をのばす。 届かない。 悲しい。 ねぇ、時。 近くにいてよ。 近くに来てよ。 わたしだけにみせてくれる優しい目が、 笑ってない。 いつもわたしを見て笑ってくれるのに。 すごく悲しい目をしてる。 その悲しい目にわたしの心はとっても痛い。 わたしはここ。 早くむかえにきて。 時のことへ行きたい。 まだ、 手をのばす。 あきらめない。 やっぱり届かない。 どんどん遠ざかる。 嫌だ。 嫌だ。 お願い。 一人にしないで。 時、 時、 とき! わたしはここ。 見つけて。 強く強く願う。 その瞬間、 ないはずの手が、時に触れる。 体? 心? 魂? の、 行く先が、 ベクトルが慣性の法則を無視した勢いで変わる。 あっちからこっちへ、 思いが通じたの? 時に近づく。 どんどん近づく。 近づきすぎて、 時の体の中に、 心の中にまで入っちゃった。 世界が全部、時になるような感覚。 完全感覚。 時の心を感じる。 聞こえる。 見える。 「なんでだよ。 圭、 まだ伝えてないことあるのに。 ずっと一緒だって、 さっき、 思ったのに。 早く戻ってきて。 お願いだよ。 圭のいない世界なんて、 おれの世界じゃない。 二人でいようよ。 圭、 大好きだよ。」 あたたかい心がわたしの心に流れ込む。 帰らなきゃ、 時を悲しませたくない。 愛なんてよくわからないけど、 好きじゃ足りない。 わたし、 時を、 愛してるよ。 ずっと一緒にいようよ。 時と一緒にいたい。 時の心はオレンジ色に光ってわたしを包んで照らしてる。 これが時の気持ち。 うれしい。 あれっ? 変な音がして… あ、 これ、 境界線を越える。 あっちとこっちの。 戻ったの? 夢みたいなあっちの世界から。 あー! 体があちこち痛い。 重たい瞼を開ける。 時の目が、アップで。 すごくうれしそうな目をして。 涙、すごくて。 「圭、よかった。もう、かたっぽはやだよ。」 ん? どんな意味? 時が笑う。 戻れてよかった。 笑ってる時の顔。 安心する。 時がわたしの顔に触れた手に、 心の温度を感じた。
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