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結局、 夏休みは圭の病院通いと、 圭の家へ行くことで終わった。 バイト… バイク。 冬休みに先送りだ。 そんなことより、 圭を寂しい気持ちにさせたくない。 事故、痛かっただろうし、心細かっただろうし。 体の傷より心の傷が心配だ。 それと、 これから先、もうこんな一緒にいられる時間なんてないかも知れないから。 圭とずっと会っていたかった。 「わたし、 今年の夏休み、 時と、 ずっと、 いられて、 事故にあって、 よかった、 かも?」 なんて、息切れするみたいに話しながら、 鼻にシワを寄せてうれしそうな顔をする圭はとてもかわいい。 「だからと言って、もう絶対に事故にはあわないように。 圭のこと心配でハゲてもいいの?」 「時、 そんな心配してくれたの? うれしいなぁ。 見た目なんてどうでもよくない? 未来にハゲても時は時だから、まったく構わないよ。」 見た目… おれはいわゆるハーフと呼ばれる… ハーフって表現、嫌だな…  差別的というか… …見た目をしてる。 母親が発音できないような国の生まれで、 偶然が偶然を呼んで、 父親と結婚した。 おれには姉がいて、 もう成人してる。 家業?は姉が結婚して、引き継いだから、 おれは自由に婿にも行けるという感じ。 圭のとこに婿へなんて、 絶対に無理だろうけど。 おれはえらばれない。 友達くらいがきっと圭にはいいのだろう。 圭は、見た目のことなんて、全然言わないし、 もしかすると、ハーフとか気がついてない気がする。 でも、 おれの緑色の瞳を覗き込んで、 「時はお母さんに似てるね。 その目の色、きれい。」って言う。 うん。 おれのことはどうでもいい。 圭は、 幸いなことに、 これから未来に事故の後遺症で悩むこととか、 傷が…なんてこともなく、 医者が驚くほどの、 驚異的回復。 奇跡的だ。 とにかくよかった。 傷があろうと、 何があろうと、 圭は圭だから、 ずっと一緒にいようと、 決めてたんだけど。 決めたと言うか、 決めなくても決まってる。 二学期の始まりの日。 朝のHR前の教室。 夏休みが終わってイメージがガラリと変わった女子がいたり、 自信にみなぎる男子がいたり… これは、夏の魔物に食われたかな。 大人と子供の境界線が曖昧な男女が一緒にいるような、 夏休みの空気感がまだある教室。 圭が病院を退院して2週間。 おれは毎日、圭の家に行ってた。 またおれの椅子を半分に座って、圭。 圭は、 もう、元気が元気すぎて、 前よりちょっとふっくらしてるけど、 さらにかわいくなってしまった。 圭の手がおれの手の上に乗ってる。 多分、無意識にしてるんだろう。 ケガからさらに距離感が詰まったバグり具合。 「課題やってないから、わたし留年するのかな?」 めずらしく甘えた声を出す圭。 可愛すぎて目が大きくなるぞ。 「圭が留年するならおれも留年しようかな。 請願書出して… 『好き…』 ………え? 何て?」 「え?って何が?」 子猫みたいな目が笑う。 声がしたんだ。 圭はさっきから、おれの目の前10センチ。 口は閉じてる。 誰の声? 耳で聞いてる声じゃない。 心の中に声がする。 気のせいかな。 おれが圭のこと好きすぎて、 心の中のイマジナリー圭が話し出したのか? もう。あれだな、 病気なのかな? 圭が大好き病。 多感の頃になる病気。 恋の病。 圭を失う恐怖が、 圭のことを好きだと言う気持ちを加速させてる。 でも、 そんなのさとられないように、 いつものように接してる。 おれの気持ちなんてどうでもいい。 ただ、 今の圭との時間を大事にしたい。 おれが、 圭に好きだなんて伝えたら、 圭はきっと、困った顔をして、 「時、 そういうんじゃないの。」って悲しそうな顔をするだろうという、 確実な未来予測はできてる。 100パターンくらい、 病院で目をさまさない圭を見つめながら、 シュミレーションした。 このまま。 このままでいい。 「ときぃ〜。」 甘ったる匂いをさせながら来たぞ。 彩子が。 巨大な胸を縦に揺らしながら。 3人取り巻きの女子を引き連れて。 彩子は超有名な女優?歌手?モデル?の娘。 まわりの男子は彩子の胸に釘付け。 圭の… えっと、 胸は小ぶりだけど、 おれは彩子より圭の方が3万光年ぐらい素敵に思うけど。 『女狐、どっか行け』 また聞こえた。 誰だ? おれの心に話しかけてるのは? 話しかけると違うな。 勝手に心の声を聞いてるみたいな。 圭が彩子に、 「時と話したいなら、わたしが通訳するから。」 「通訳されなきゃいけないほど、おれは滑舌悪いのか?」 手のひらの上の圭の手がぎゅっと握られる。 おれは、 「彩子、(またさらにぎゅっと、ちょっと痛いくらい)何か用?」 簡潔に、つけ入れられないように、短く言った。 彩子は、長い髪の毛はらりと、 腰に手をして、 モデルみたいな感じで… あー。 彩子から甘ったるい嫌いな匂いがする。 圭の汗の匂いの方がいい匂い。 (変な匂いフェチじゃないからね) 「時は放課後は暇よね? (そういう上から発言、だから彩子は苦手) 私、ギター買ったのぉ。 よくわからないから、私の家に来て、ちょっと教えてほしいのぉ〜。」 小さいぉは何だろ? なぜ語尾をのばすのか? 普通に話したらいいのに。 変すぎてちょっと笑う。 かわいいアピール? 全くかわいくない。 圭のざっくりした話し方の方がかわいいぞ。 「彩子ちゃんのお母さん、 ギター弾きながら歌ってるよね? お母さんに教えてもらえば? そ、れ、と! 時の放課後は未来まで私の予約でいっぱいだから無理よ。」 能面みたいな顔で圭が言う。 そんな顔もできるのか。 今度、おれにもやってもらおう。 「圭ちゃんは、彼女でもないのに彼女マウントとるのね。」 空気がピキッと音をたてる険悪な雰囲気です。 『女狐退散の呪文 ケセランパサラン』 また声聞こえたぞ。 え? 何それ。 ケセランパサランって。 面白くて笑う。 笑ってるおれをみて二人、空気がなごむ。 「彩子、 お母さんに、 たまには、 おれの母さんに会いに来てって。 時が言ってたよって。 そう言えばわかるから。」 圭がさらに強くおれの手を握る。 もう、 おれを手のひらのを返して、 優しく握った。 さらに強く痛く握りかえされたけど。
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