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6
久しぶりに時の家へおじゃまする。
まだ提出できてない、
夏休みの課題を時が手伝ってくれるんだ。
そういう気づかい。
さりげなくわたしにしてくれる時が好きなの。
それはわたしだけにしてくれる特別なのかな?
みんなにも同じことするのかな?
9月、
夏の太陽。
午前9時、暑い。
つばの大きな帽子。
涼しげな薄い青のワンピースなんて着て、ちょっと女子してみる。
時の家なんて久しぶり。
時はわたしを家にあまり誘いながらない。
「うちの家族はちょっとかわってるから。」って、時は言うんだけど。
手には紙袋プラプラ。
瓶に入ったブツがある。
手土産にかーちゃんから、
ソースを渡された。
大将ソース。
それも超高級。
大将が手作りしたという、レアな逸品。
なかなか手には入らない大将高級ソースをかーちゃんは簡単に手に入れたらしい。
とーちゃんがかーちゃんに、
「仕事とプライベートわけないと部下から嫌われるぞって。
◯◯◯◯だって大変だろ?」
◯◯◯◯は音楽用語みたいな…
フォ…なんだっけ?
まぁ、いいか。
出掛ける時に渡されたブツを前にしてお母さん。
「時ちゃんのお母さん、このソース大好きだから、きっとよろこぶわよ。」
うちのかーちゃんは時のお母さんと昔からの知り合いみたい。
多くは話さないけど、
そう言えば、うちのかーちゃんも時のお母さんと同じく、日本語だと発音できないような国の生まれだと言ってた。
時はお母さんに似て、外国人のような感じ。
わたしは、とーちゃんに似たんだろう。
まるっきり日本人みたいだもの。
かーちゃんに似たら、時はもっとあたしを好きになってくれてたかな?
かーちゃん美人だ。
とーちゃんは並。
どこでかーちゃんと知り合ったんだろうか?
親にも青春時代はあったはず。
今度きいてみる?
なんか、親の恋愛話って、ちょっとききづらいよね。
なんて考えてるうちに時の家。
ごく日本風な家。
そんなに大きくない。
離れにおじいさんとおばあさんが住んでる。
おじいさんとおばあさんも不思議な感じ。
「圭ちゃん、時のこと好きなの?」
おばあさんに会うとよく聞かれる。
『はい!』って滑舌よく言いたいけど、
言ったら、
時の迷惑になる。
時は笑ってない目で、
「圭は友達としかみられない。」とか言いそう。
多分、そう思ってる。
時はすごくカッコいい。
優しくてつよくて、
目がきれい。
わたしなんかにすごく優しい目をしてくれる。
ずっと時と一緒にいたい。
……、
おばあさんの質問には曖昧な笑顔で答える。
そうすると、
歌舞伎揚げを2枚くれる。
「こんなこと聞いたこと、
内緒に、して。
今、話したこと。
(おじいさんに)
あれで、
結構、時のことになるとうるさいの。
もう、
睡蓮…ね? 圭ちゃんごめんね。」
ん? スイレンってあの睡蓮?
どんな意味だろ?
おばあさんは、
目の下の赤いアイラインと美しい後に伸ばした髪。
昔からそう。
素敵なおばあさん。
時の家族、
みんな好き。
いつか、わたしも家族になりたい。
私より幼く見えるおばあさん。
おじいさんもすごく若くみえる。
謎だ。
呼び鈴を鳴らす。
インターホンから声がかかるかと思ったら、
玄関が開いて、時のお母さん。
今日もすごく美人。
そしてかわいい。
「圭ちゃん、
ようこそ。
よくいらしてくれたわ。
とてもうれしいです。」
すごく上手な日本語で、
そして丁寧に美しくお辞儀をする時のお母さん。
その後ろから、時。
「お母さん、
もう、
なんで先に出るの。
圭が来るのうれしいだろうけど、
ちょっと遠慮して。」
なかなか見せない時の顔。
家族と一緒の時はそんな顔するのね。
「あら、時がそんなこと言うなんて、反抗期かしら?
お父さん、時が大変…」
時のお母さんは廊下を走って奥の部屋へ。
あそこはリビング…和風に言うとお茶の間?
奥から声がする。
「し…そっと…ておいて…」
お父さんの声がぼんやり聞こえる。
「圭、今日はとてもかわいいね。
あ、いつもだけど。」
え?
そんなこと言われたことない。
ワンピースのこと?
わたしのこと?
照れて言葉を失う。
時はもハッとした顔をしたり、赤くなったり…
どしたの?
「じゃ、あがって。」
あ!手土産渡すの忘れてた。
「これ、かーちゃんから、時のお母さんにって。」
時に渡す。
中身みる。
「え? これ、すごい。」
時は走って茶の間へ。
ん?
時のお母さんの声が聞こえる。
割と大きめに。
「なんてことでしょう。こんな素敵なもの…
どうしましょうか…今夜はお好み焼きにしましょうかね。」
時、戻ってきた。
その後にお母さん。
お父さんに何か言われたのか控えめに、
「ピア…あ、え、お母さんにありがとうって、伝えてくださいね。私からも電話しますけど。
夜はお好み焼きにするから、圭ちゃんも食べていって。」
「お好み焼き! 大好きです。
遠慮なくいただきます。」
ここは遠慮した方がいいのかな?
でも、
時の家族は遠慮とかしない方がよさそうな雰囲気。
それに夜まで時といられる。
「圭ちゃん、泊まっていきますか?」
時のお母さんが言う。
時がすぐに、
「お母さん、
圭が迷惑してるじゃないか。」
ここは、
正念場って、
はじめて迎える正念場。
これ、人生のターニングポイント。
絶対にそう思う。
遠慮とか、そんなの、
どこかへうっちゃれ。
(うっちゃれは方言で捨てろって意味ね。)
自分の気持ちに正直に。
「はい。
圭と泊まりたいです。」
あ?
ん?
これ、
で、
よかった、
の、
かな。
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