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久しぶりに時の家へおじゃまする。 まだ提出できてない、 夏休みの課題を時が手伝ってくれるんだ。 そういう気づかい。 さりげなくわたしにしてくれる時が好きなの。 それはわたしだけにしてくれる特別なのかな? みんなにも同じことするのかな? 9月、 夏の太陽。 午前9時、暑い。 つばの大きな帽子。 涼しげな薄い青のワンピースなんて着て、ちょっと女子してみる。 時の家なんて久しぶり。 時はわたしを家にあまり誘いながらない。 「うちの家族はちょっとかわってるから。」って、時は言うんだけど。 手には紙袋プラプラ。 瓶に入ったブツがある。 手土産にかーちゃんから、 ソースを渡された。 大将ソース。 それも超高級。 大将が手作りしたという、レアな逸品。 なかなか手には入らない大将高級ソースをかーちゃんは簡単に手に入れたらしい。 とーちゃんがかーちゃんに、 「仕事とプライベートわけないと部下から嫌われるぞって。 ◯◯◯◯だって大変だろ?」 ◯◯◯◯は音楽用語みたいな… フォ…なんだっけ? まぁ、いいか。 出掛ける時に渡されたブツを前にしてお母さん。 「時ちゃんのお母さん、このソース大好きだから、きっとよろこぶわよ。」 うちのかーちゃんは時のお母さんと昔からの知り合いみたい。 多くは話さないけど、 そう言えば、うちのかーちゃんも時のお母さんと同じく、日本語だと発音できないような国の生まれだと言ってた。 時はお母さんに似て、外国人のような感じ。 わたしは、とーちゃんに似たんだろう。 まるっきり日本人みたいだもの。 かーちゃんに似たら、時はもっとあたしを好きになってくれてたかな? かーちゃん美人だ。 とーちゃんは並。 どこでかーちゃんと知り合ったんだろうか? 親にも青春時代はあったはず。 今度きいてみる? なんか、親の恋愛話って、ちょっとききづらいよね。 なんて考えてるうちに時の家。 ごく日本風な家。 そんなに大きくない。 離れにおじいさんとおばあさんが住んでる。 おじいさんとおばあさんも不思議な感じ。 「圭ちゃん、時のこと好きなの?」 おばあさんに会うとよく聞かれる。 『はい!』って滑舌よく言いたいけど、 言ったら、 時の迷惑になる。 時は笑ってない目で、 「圭は友達としかみられない。」とか言いそう。 多分、そう思ってる。 時はすごくカッコいい。 優しくてつよくて、 目がきれい。 わたしなんかにすごく優しい目をしてくれる。 ずっと時と一緒にいたい。 ……、 おばあさんの質問には曖昧な笑顔で答える。 そうすると、 歌舞伎揚げを2枚くれる。 「こんなこと聞いたこと、 内緒に、して。 今、話したこと。 (おじいさんに) あれで、 結構、時のことになるとうるさいの。 もう、 睡蓮…ね? 圭ちゃんごめんね。」 ん? スイレンってあの睡蓮? どんな意味だろ? おばあさんは、 目の下の赤いアイラインと美しい後に伸ばした髪。 昔からそう。 素敵なおばあさん。 時の家族、 みんな好き。 いつか、わたしも家族になりたい。 私より幼く見えるおばあさん。 おじいさんもすごく若くみえる。 謎だ。 呼び鈴を鳴らす。 インターホンから声がかかるかと思ったら、 玄関が開いて、時のお母さん。 今日もすごく美人。 そしてかわいい。 「圭ちゃん、 ようこそ。 よくいらしてくれたわ。 とてもうれしいです。」 すごく上手な日本語で、 そして丁寧に美しくお辞儀をする時のお母さん。 その後ろから、時。 「お母さん、 もう、 なんで先に出るの。 圭が来るのうれしいだろうけど、 ちょっと遠慮して。」 なかなか見せない時の顔。 家族と一緒の時はそんな顔するのね。 「あら、時がそんなこと言うなんて、反抗期かしら? お父さん、時が大変…」 時のお母さんは廊下を走って奥の部屋へ。 あそこはリビング…和風に言うとお茶の間? 奥から声がする。 「し…そっと…ておいて…」 お父さんの声がぼんやり聞こえる。 「圭、今日はとてもかわいいね。 あ、いつもだけど。」 え? そんなこと言われたことない。 ワンピースのこと? わたしのこと? 照れて言葉を失う。 時はもハッとした顔をしたり、赤くなったり… どしたの? 「じゃ、あがって。」 あ!手土産渡すの忘れてた。 「これ、かーちゃんから、時のお母さんにって。」 時に渡す。 中身みる。 「え? これ、すごい。」 時は走って茶の間へ。 ん? 時のお母さんの声が聞こえる。 割と大きめに。 「なんてことでしょう。こんな素敵なもの… どうしましょうか…今夜はお好み焼きにしましょうかね。」 時、戻ってきた。 その後にお母さん。 お父さんに何か言われたのか控えめに、 「ピア…あ、え、お母さんにありがとうって、伝えてくださいね。私からも電話しますけど。 夜はお好み焼きにするから、圭ちゃんも食べていって。」 「お好み焼き! 大好きです。 遠慮なくいただきます。」 ここは遠慮した方がいいのかな? でも、 時の家族は遠慮とかしない方がよさそうな雰囲気。 それに夜まで時といられる。 「圭ちゃん、泊まっていきますか?」 時のお母さんが言う。 時がすぐに、 「お母さん、 圭が迷惑してるじゃないか。」 ここは、 正念場って、 はじめて迎える正念場。 これ、人生のターニングポイント。 絶対にそう思う。  遠慮とか、そんなの、 どこかへうっちゃれ。 (うっちゃれは方言で捨てろって意味ね。) 自分の気持ちに正直に。 「はい。 圭と泊まりたいです。」 あ? ん? これ、 で、 よかった、 の、 かな。
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