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八月中旬。夕方になっても茹だるような暑さの中、多くの人が道を歩いている。浴衣を着たり、祭と書かれたうちわを仰ぐ人の姿も目立った。
葉月涼介の住むこの街では、毎年八月中旬に花火大会が開催されている。かなり規模の大きな大会で、県外からの観光客の姿も多い。
涼介は俯きがちに歩いていた。胸の奥が締め付けられたかのように苦しく、緊張で汗をかいてしまう。頭の中では、一週間前に好きな人に言われた言葉が巡っていた。
『じゃあ、花火大会の日に会場で待ち合わせね!一緒に行ってよ!』
あの笑顔で放たれた言葉が、どういう気持ちで言われたのかが涼介はわからなかった。涼介はその人と友達でも家族でも恋人ですらないのだ。
(これは期待してもいいのか?いやいや、そんなわけないよな)
グルグルとこの気持ちについて考えながら歩いていると、「涼介く〜ん!」と声をかけられた。前を向けば、そこには浴衣姿の好きな人ーーー夕凪光里が立っていた。
ひまわりの柄の可愛らしくも大人びた浴衣に、結い上げられた髪、耳元で揺れるピアス。全てが美しく見え、涼介の胸が高鳴った。
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