August〜隠したはずの気持ち〜

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「ゆ、夕凪先輩!お待たせしました……」 「いいよ、今来たところだから!行こ?」 光里は笑顔のままクルリと後ろを向き、出店が並ぶ賑やかな通りを歩いて行く。その後ろ姿を見つめながら、涼介は「綺麗です。先輩、好きです」と小さく呟いた。 光里は涼介の通う大学の先輩で、同じ音楽同好サークルに入っている。様々な音楽を聴く光里は話し上手で聞き上手。いつも周りに人がおり、涼介は光里に一年生の頃から想いを寄せているものの、この恋は叶わないと諦めていた。 (だって、先輩の隣に立つのに俺は相応わしい人じゃない) 諦めなくては、と思うほど胸が締め付けられていく。夏休みに入り、八月に入ったある日のこと。涼介は用事があって大学に行った。その帰りにふと音楽同好サークルの部室に寄ったのだ。そこでは、一人で光里が音楽を聴いていた。 「先輩、こんなところで何してるんですか?」 胸が高鳴っていくのを感じながら涼介が訊ねると、光里はイヤホンを外してニコリと笑う。 「ボカロ聴いてたの。Fire◎Flowerって曲。知ってる?」 「いえ、ボカロは全然聴いたことがなくて……。どんな曲なんですか?」
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