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「しかし、よいのかかやの。
俺とお前では、寿命が違う。共に年をとることも叶わない。普通の人としての幸せは得られず、こんな寂しい社の中で一生を終えるのだぞ」
「よいではないですか。かやのは一生、たくさんお戌様のお傍にいられます。それに、ここにはね、意外にたくさんやることがあって、寂しいなんて思いません」
「神と人が子を成せるのか、聞いたことがない。
たとえ成したとして、かやのの身体が無事なのかどうかもわからぬ」
「大丈夫、私にはわかります。かやのはおいぬ様を愛しております。だからきっと、おいぬ様の子を成し、育て上げるでしょう」
泣きながら笑ったかやのを、お戌様はため息とともに抱き寄せた。
「はあ…分かった、もう、かやのの好きにするといい。
ただし、今宵の粗相は許さないぞ。
割れた鏡から漏れ出た神力は、今宵、もう一度かやのから補わせてもらうからな」
「お戌様…あ…」
かやのの頬の涙の跡をペロリと舐めると、おいぬ様は今一度その唇を塞いだ。
かやのの白い胸に手をやって、包むように優しく触れる。
村の鎮守の御社の、静かな夜更けには、かくも甘い時が流れる。
こうして、かやのがニ度まで割った鏡がとっくに修復された後も、神主様や村人たちには内緒にし、かやのが生を全うするまで、長い時を二人は静かに社に暮らしたという。
密やかに、じっくりと愛をはぐくみながら。
《おわり》
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