れぷりからいふ

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れぷりからいふ

第三次世界大戦の真っ只中、日本。 「牙門獣郎少佐。今日までご苦労だった」  左目に眼帯をした、白髪で初老の男性が不満そうに立っていた。 「そんな顔をするなよ。私だって君に前線を退かれるのは痛い」 「すみません。自分が目を悪くしなければ……」  椅子に座ったままの植野中将は優しく笑いかける。 「名誉の負傷だ。とは言え、君を休ませておく余裕は今の日本にはない」 「もちろんです。これからは教官として、日本のために粉骨砕身します」 「それなんだがね、君に頼みたいことがある」  植野中将は椅子から立ち上がり、窓を眺める。 「第三次世界大戦が始まって、人口の少ない日本は兵士不足に陥っている」 「はい。なので、自分が新兵を育てる教官としてーー」 「遅いのだよ。それでは」  いつもにこやかに笑みを絶やさず、目を細めている植野中将が目を見開いた。 「新米が一人前に育つまでに何年かかる? その間にも人は死んでいくぞ」 「しかし、それはどうしようもーー」  獣郎が言い訳をしようとすると、植野中将は引き出しから一台のスマホを取り出した。 「これは?」 「その中には、現在わが国が開発中のAI「レプラカーン」が入っている。これを君には育ててもらいたい」  獣郎は気づいた時には机を叩きつけていた。 「私に機械を育てろと言うのですか!?」 「日本は今猫の手も借りたいような状況なのだ。人の手が足りないなら仕方あるまい」  獣郎は震える手でスマホを受け取った。 「そのスマホを肌見放さず持っていてくれ。会話を楽しむといい」  獣郎は部屋を出るとポケットに無造作にスマホを突っ込んだ。 『始めまして、牙門獣郎教官』  獣郎は辺りを見渡すが、周りには誰もいない。 『私は戦闘用AIレプラカーンです。これからよろしくお願いします』  ポケットに入れたスマホを見ると、獣郎には意味の分からない波の様なマークが声に合わせて揺れていた。 「驚いた。最近のAIってのは随分と流暢に喋るんだな」 『これからはスマホをポケットに入れている時はワイヤレスイヤホンをすることをおすすめします。私の声がよく聞こえるようにね』 「ふん」  獣郎は寮の自室に帰ると、銃の手入れを始めた。 『もう貴方は前線に立たないはずなのに、なぜ銃の手入れをしているのですか?』  獣郎は不機嫌そうな顔をしながら、銃を手入れしながら答える。 「昔からの習慣みたいなもんだ。やらないと落ち着かねえんだよ」 『前線を退いても武器が手放せないとは、かわいそうに』  獣郎はピタリと手を止め、残っている右目でレプラカーンの入ったスマホを睨みつける。 「最近のAIってのは喧嘩も売れるのか、随分高性能だな?」 『お褒めにあずかり光栄です。私は実際の戦場を経験したことがありませんので』 「なあ、AIは死ぬのか?」  獣郎は手に持っていた銃をスマホに突きつける。 『この端末を壊しても、植野中将が管理している私のバックアップが起動するので、そういう意味では死にません』  獣郎は銃を降ろすと、ドカッと胡座をかく。 「なら、おまえが戦場で活躍することはないだろうな」 『私を自己判断で戦闘ができるAIにするのが、植野中将が与えた貴方の任務ですよ?』 「死の恐怖がない奴は戦場では生き残れん」 『しかし、恐怖で足がすくんで動けないこともあるのでは?』 「確かにある。だが、そこが壊れちまったら、もうまともな判断はできない」 『……』  しばらくの沈黙の後、レプラカーンは笑い声を上げた。  それには獣郎も驚いたようで、ギョッとした顔でスマホを見つめていた。 「よくできてるな。最近のAIってのは笑うのか」 『いえ、失礼。やはり人間は興味深い。行ってみたいですね、貴方の言う戦場に』  獣郎はホルスターに銃をしまうとワイヤレスイヤホンを右耳にだけはめる。 『どこかにおでかけですか?』 「俺もおまえに少し興味が湧いた。連れてってやる、戦場に」  
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