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プロローグ
「お前なら出来るだろう、ほらやってごらん」
闇の中から何かが言った。暖かく懐かしい声であったが、本当に信じていいものなのか・・・。
「大丈夫だから」
「でも・・・」
「お前はずっとここにいる気なのか?」
「でも、それは・・・」
黒い声はしきりに囁きかける。もう2年以上も急き立てられていた。
だが、未だに決心が付いていないのだ。
「戻って来られなくなったら・・・」
「大丈夫だよ。帰って来ることもできるから。それより、お前1人だけこんなとこに閉じ込められて、不公平だとは思わないのかい?」
「そうだけど・・・」
「絶好の機会だよ。これを逃したらもうチャンスはない」
「・・・」
「ちょっと借りるだけさ。またすぐ返せばいいんだ」
顔の見えない黒い声が言い募る。
「不公平・・・」
「そうだ。不公平じゃないか、そうだろ?」
もう3年も付きまとっている黒い声が煽った。
「うん・・・」
「そんなの単に確率の問題だったんだ。それなのに、お前だけ、この暗い牢獄に閉じ込められて・・・」
「少しくらいならいいよね?」
「そうとも。少しくらい、いいさ」
その時牢獄の外から冷たい風が入って来たのを感じた。
冷気が不安な気持ちを凍らせた。そして意志も固まった。
やるしかない。千載一遇のチャンスなのだ。
「自分には出来る」
「そうさ、お前なら出来る。簡単なことだ」
「悪いことじゃない」
「悪いことなんかじゃないさ。当たり前じゃないか」
後はタイミングを待つだけだった。
黒い声はもう聞こえなかった。今はひとりで悪事を成し遂げるのだ。
「悪事? やっぱりこれは悪事なんだろうか?」
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