3・隣国の王子

3/3
前へ
/32ページ
次へ
「ひとつ、教えてください……。あなたは、私を愛して婚約を求めているのですか? それとも……国のため、ですか?」  ノキアは、セイラに代わって問い(ただ)した。 「ふう、愚問だね。君も一国の王女ならわかるだろう? そりゃあ、僕は君を愛している。しかし、僕は一国を背負った王子、後継者だ。国のためになることをするのは、至極当然のことだろう?」 「そう、ですね……」  ──私はそこから逃げてきたのだ。  ミタの後継者という立場から。 「なにも心配はしなくていい。君は僕と結婚する運命にあるのだから」  ──違う。仕方がなかった。私には、その資格がなかったから。  言い訳にすぎないのか……? 「早かれ遅かれ、そうなるんですよ」  ──私は逃げてきた。  だから、こんなこと、私が言う資格はないのかもしれないが……。 「さあ、誓いの口付けを……」  王子がノキアに近づくのと、デュランが剣の柄に手をかけたのは、ほぼ同時だった。しかしノキアは怒りを抑えた表情で、靴のヒールを王子の足にぐりぐりと食い込ませた。 「私がこんなことを言う資格はないのかもしれないが……。おまえに王女はやらん!!」  ノキアは、憤慨してバルコニーを去った。 「そ、それでこそ……我が妻にふさわしい……」  王子は、そう言いながらその場にしゃがみ込んだ。  ノキアが廊下に出ると、追いかけてきてくれたのはデュランだった。 「ノキ……王女様」  その姿を見た途端、安心したのか、ノキアは軽く眩暈を覚え足元がふらつく。デュランに支えられる形になったが、そこへセイラがやってきた。 「デュラン、あなたは客将。軽々しく王女に触れてはダメよ」 「すみません、ふらついていたものですから」 「そうですか、感謝いたします。王女様、一旦お部屋に戻りましょう」  セイラに支えられ、ノキアは部屋に戻った。    部屋にふたりきりになると、ノキアは事の顛末を説明した。セイラが神妙な顔をしている。 「ごめん……国際問題に、なるかな?」 「ううん、大丈夫よ。すっきりしたわ。これで少しでも距離を置けるなら、それでいいし……」  セイラは笑顔でノキアに抱きついたが、その表情はどこか寂しそうだった。 「本当にありがとう。ノキアがこの町に来てくれて、出会えて、本当に良かった。わたしたち、本当の友達になれるかしら……?」 「ああ、本当の友達だ。入れ替わりは、もうゴメンだけどな」 「なーんだ、先に釘を刺されちゃったか」  セイラは、ぺろっと舌を出した。 「さて、パーティーも終わったことだし、入れ替わりはそろそろ終わっていいかな?」  ウィッグを脱ごうとするノキアを、セイラが止めた。 「あら、まだよ。言ったでしょ? 『一日体験』だって」 「えええええ……」  二人の笑い声が部屋に響く。  生まれも育ちも異なるが、同じ波長を見つけたかのように、自然と心が通い合うようだった。  パーティー終了後、セイラの父親である国王陛下から少々のお咎めはあったが、正体がばれることもなく、無事に一日が終わった。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加