29人が本棚に入れています
本棚に追加
「ひとつ、教えてください……。あなたは、私を愛して婚約を求めているのですか? それとも……国のため、ですか?」
ノキアは、セイラに代わって問い質した。
「ふう、愚問だね。君も一国の王女ならわかるだろう? そりゃあ、僕は君を愛している。しかし、僕は一国を背負った王子、後継者だ。国のためになることをするのは、至極当然のことだろう?」
「そう、ですね……」
──私はそこから逃げてきたのだ。
ミタの後継者という立場から。
「なにも心配はしなくていい。君は僕と結婚する運命にあるのだから」
──違う。仕方がなかった。私には、その資格がなかったから。
言い訳にすぎないのか……?
「早かれ遅かれ、そうなるんですよ」
──私は逃げてきた。
だから、こんなこと、私が言う資格はないのかもしれないが……。
「さあ、誓いの口付けを……」
王子がノキアに近づくのと、デュランが剣の柄に手をかけたのは、ほぼ同時だった。しかしノキアは怒りを抑えた表情で、靴のヒールを王子の足にぐりぐりと食い込ませた。
「私がこんなことを言う資格はないのかもしれないが……。おまえに王女はやらん!!」
ノキアは、憤慨してバルコニーを去った。
「そ、それでこそ……我が妻にふさわしい……」
王子は、そう言いながらその場にしゃがみ込んだ。
ノキアが廊下に出ると、追いかけてきてくれたのはデュランだった。
「ノキ……王女様」
その姿を見た途端、安心したのか、ノキアは軽く眩暈を覚え足元がふらつく。デュランに支えられる形になったが、そこへセイラがやってきた。
「デュラン、あなたは客将。軽々しく王女に触れてはダメよ」
「すみません、ふらついていたものですから」
「そうですか、感謝いたします。王女様、一旦お部屋に戻りましょう」
セイラに支えられ、ノキアは部屋に戻った。
部屋にふたりきりになると、ノキアは事の顛末を説明した。セイラが神妙な顔をしている。
「ごめん……国際問題に、なるかな?」
「ううん、大丈夫よ。すっきりしたわ。これで少しでも距離を置けるなら、それでいいし……」
セイラは笑顔でノキアに抱きついたが、その表情はどこか寂しそうだった。
「本当にありがとう。ノキアがこの町に来てくれて、出会えて、本当に良かった。わたしたち、本当の友達になれるかしら……?」
「ああ、本当の友達だ。入れ替わりは、もうゴメンだけどな」
「なーんだ、先に釘を刺されちゃったか」
セイラは、ぺろっと舌を出した。
「さて、パーティーも終わったことだし、入れ替わりはそろそろ終わっていいかな?」
ウィッグを脱ごうとするノキアを、セイラが止めた。
「あら、まだよ。言ったでしょ? 『一日体験』だって」
「えええええ……」
二人の笑い声が部屋に響く。
生まれも育ちも異なるが、同じ波長を見つけたかのように、自然と心が通い合うようだった。
パーティー終了後、セイラの父親である国王陛下から少々のお咎めはあったが、正体がばれることもなく、無事に一日が終わった。
最初のコメントを投稿しよう!