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4・デュランの秘密
『もう随分と経つが、まだ実行していないのか?』
「……は。申し訳ございません。なかなか良い機会に恵まれず」
暗がりの中、魔法ビジョンの向こうで、中年の男が話している。
魔法ビジョンとは、離れた相手と顔を見て話せる通信手段である。お互いの顔と名前を認知していれば、その魔法を唱えるだけで通話ができる。その男と会話をしているのは。
『もしやお主、情が移ったのではあるまいな? お主に任せたのは失敗だったか?』
「とんでもございません。一刻も早く、それはわかっております」
『うむ。よいか、もうあまり時間は与えられない。一刻も早く処分するのだ! ミタは危険なものだ。手遅れにならんうちにな……。デュラン』
「わかっております……大佐」
デュランは魔法ビジョンを切断し、こぶしを握り締めた。
「どうしたら、よいのだ……」
デュランは苦悩の表情を浮かべ、明かりをつけた。
その直後、誰かがいきなり扉を開けた。
「デュラン、そろそろ出発しようと思うのだが……」
「うわっ!? あ、ノキア殿か……。そのウィッグと眼鏡は?」
珍しく、ノキアがノックもなしに入ってきた。どうやら、変装した姿を見てもらいたいと焦っていたようだ。
「いつでも出発できるようにと、今度は私がブロンドに変装だ」
ノキアも、それなりに変装を楽しんでいる。変装した姿もまた、昨日のセイラと瓜二つだった。
すると、今度は誰かが部屋の扉をノックした。入るよう促すと、スタンだった。
「あのぅ、出発のところ悪いんだすが、ちょっと大臣に会ってもらいたいだす……」
「大臣に? なぜ?」
変装のことがばれたのだろうかと、ノキアとデュランは顔を見合わせる。
「詳しいことは、オイラもわからないだす。ただ、おふたりを連れてくるようにと……。姫様もいらっしゃいますので、問題があれば対処してくれると思うだす」
とりあえず話を聞いてみようと、ふたりは大臣に会うことにした。
部屋には、ノキアとデュラン、セイラと大臣だけであった。スタンは、廊下で待っている。
大臣は、自慢のヒゲを整えながら話し始めた。
「スタンから聞いたのじゃが……お主、ミタの剣術の使い手だそうじゃな?」
それを聞いて、デュランはしまったと、顔をしかめた。昨日、スタンと勝負をする時に、うっかりと口にしてしまい、口止めするのを忘れていた。ノキアは、心配そうにデュランを見ている。
「訳あって、そのことは隠しております。ご内密にお願いします」
「うむ、いいじゃろう。こちらからもお願いがあるのじゃ」
「なんでしょう?」
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