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ノキアが訊ねると大臣は立ち上がり、部屋を歩きながら説明し始めた。
「実は……重要書類が盗まれたようでな。おそらく、昨日のパーティーの間にと思うのじゃが。あー、お主たちのことは疑っておらんよ。パーティーの間はずっと会場にいたと言うし、その後は警備も厳重になっておるからな」
「それで……お願いというのは……」
「要は、その重要書類を取り返してほしいってことなのよね」
セイラが、軽い口調で間に入ってきた。
「姫様! それはワシの台詞ですぞ! うむ、まあ、そういうことなのじゃ。お主を、ミタの剣術の使い手と見込んでな」
「しかし……そういったことは警備兵にまかせたほうが……」
余所者の自分たちより、近しい者にまかせたほうがいいのではないかと、デュランは言った。
「信用がおけんのじゃ。いくら城の者でもな、間者が紛れている可能性もなくはない」
「我々の信頼はよろしいのですか……?」
ノキアが問うと、大臣は「ウォッホン!」と大きく咳払いをする。
「ミタの剣術の極意。人のために剣を振るい、人を生かすための剣」
「…………!」
言われてノキアとデュランは、息を呑んだ。ミタの剣術は世界的にも名を知られているが、その極意が遠く離れたこの国にまで知れ渡っているとは思わなかった。
「どうですかな?」
「……わかりました。しかし、犯人の検討がつきません。それがわかれば、お引き受けすることもできるのですが」
「それなら大丈夫よ。わたしが犯人をばっちり見ているから!」
セイラが、自信満々に胸を張り、被せ気味に口を開いた。
「犯人を見た!?」
ノキアが驚くと、セイラは頷きながら、さらに声を張った。
「ええ。多分、アルバート王子よ。アイゼンブルグの」
「あいつか……!」
ノキアとデュランが、声を合わせて舌打ちした。
「それで、その……。案内役なのじゃが……」
大臣は、言葉を渋らせる。
「はいはーい、わたしが行きまーす!」
セイラが、元気よく手を上げた。
「……ということなのじゃ」
「……ということ、って、どういうことですか! 王女を危険な目に合わせるわけには……!」
ノキアが勢いよく机を叩いた振動で、置かれていたお茶がこぼれた。
「それはワシもわかっておる! しかし、アイゼンの城をよく知る者は、姫様しかおらんのじゃ……」
「わたし、アイゼンには子供の頃から遊びに行っていたから、庭みたいなものなのよね」
「もちろん、書類も大切じゃが、姫様の命が最優先じゃ。姫様になにかあるようであれば……その時はお主らも覚悟をするのじゃぞ?」
大臣の目が、ぎらりと光った。
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