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1・うりふたつな王女様
さわやかな風、賑わう町。今日は3ヶ月に一度の、リザンブルグ王国の祭典の日だった。
城下町はさまざまな露店が並び、人々があふれ返っている。遠方からこの祭典を楽しみに来る者もおり、今日だけは王国の人口が2倍にも3倍にもなる。同行者とはぐれるのも、しかたがないことなのであった。
「スタンー、スーターンー? どこー? もう、どこに行っちゃったのよ!」
早速、仲間とはぐれたらしきブロンドのショートヘアの少女が仲間の名を呼んでいるが、この広さ、人数では見つかりそうもない。
「せっかくお城を抜け出して来たって言うのに……。まあ、いいか。そのうち見つかるよね。お祭りは一人でも楽しめるし!」
そう意気込んだ直後、少女のお腹が激しく鳴った。幸い、周りが騒がしすぎて他人には聞こえていないようだ。
「う……。そういえばお腹空いた……。お金はスタンが管理してるし……。うう……。やっぱりスタンを探さなきゃぁ……」
お腹を空かせた少女は、よろよろと歩き始めた。
*
一方その頃、この城下に辿り着いた一組の男女がいた。旅人のようである。
男は背が高く黒髪の青年で、腰には使い込まれた剣が備えられている。女は、まだ少女だが、アイスブルーのショートヘアにきりりとした瞳である。
「ようやく町に着きましたね、お嬢様」
「……お嬢様と呼ぶな、と言っただろ、デュラン?」
少女は、むっとして言葉を返し、デュランと呼ばれた青年は、あわてて訂正する。
「失礼しました、ノキア殿。しかし、今日はどうやら祭りのようですね。宿が取れるかどうか、心配です」
「そうだな……。仕方がないが、一軒ずつ探すしかないな」
「もしはぐれたら、あの時計塔の下で落ち合いましょう」
デュランは、街の中で一番高い時計塔を指した。あれなら初めて来た町でも、どこにいても目標にできる。そして一歩前に進み、ノキアに手を差し出した。
「なに?」
「はぐれるといけませんので、手を」
「……ありがとう」
ノキアは、淡く微笑んでデュランの手を取った。
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