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「ひめさ……じゃない、セイラ様ーセイラ様ー、どこだすかー? まったく、ちょっと目を離したスキにこれだから……。迷子になった時の、落ち合い場所を決めておけばよかっただすね……」
ここでもまた、人を探している男がいた。言葉は少しなまっている。しかし、こう人が多くては探しようもなく、また名を呼ぶ声もかき消されていた。
「仕方がないだすね、ほとぼりが冷めたらお城に戻ってくるでしょうし、オイラは一旦城に戻って……ん?」
その時、男の視界に見知った少女の姿が入った。
「セイラ様!? セイラ様ー!!」
男は懸命に名を呼ぶが、少女は振り向かない。男は、人ごみをかきわけて、少女の元へ急ぐ。
「セイラ様!」
男が少女の腕を掴み引っ張ると、少女がもう一方の手で掴んでいたものが離れた。
「な、なに?」
「セイラ様、こう人ごみがすごくては大変だす。もう少しひと気のないところへ行きましょう!」
「え? なに? おまえ、誰だ!?」
男が掴んだ腕は、ノキアのものだった。しかし、男は気づいていない。ノキアが、怪しい男だと、自分の剣の柄に手をかけたその時……。
上空に何かが飛び出し、一瞬視界が暗くなった。人々は、何事かとその飛び出したものに注目し、目で追いかけた。それは、一瞬のうちに正確に、ノキアと男の間に着地した。
「ノキア殿になにをするつもりだ?」
ノキアの用心棒であるデュランは、ためらいなく男に向かって剣を抜いた。
剣を見た周囲の人は驚き、悲鳴をあげるものや歓声をあげるものもいた。
「なにを言ってるだすか! この方はセイラ様だす!! オイラは今日、セイラ様と祭りに来てはぐれていただす! それを見つけたから、こうしているだす!! あんたこそ、セイラ様になにをするつもりだすか!?」
男の言い分を聞いて、デュランはため息をついた。
「……失礼だが、人違いではないか?」
「人違いなわけないだす! これはセイラ様だす! なんなら、勝負してもいいだす! 我が名は、スタン・マッカリスター!」
スタンと名乗った男は、剣を抜いた。勝負の前に名を名乗るのは、剣士としての礼儀である。デュランは仕方なさそうに首を横に振った。
「……よかろう。我が名はデュラン。デュラン・マクレガー」
デュランもまた、一度下げた剣を再び構えなおす。
いつの間にか周囲の人はいなくなり、空間ができている。少し離れたところで、町の人々が歓声をあげている。
「デュラン……」
ノキアが心配そうな目を向ける。
「心配いりません、ノキア殿。ちゃんと手加減いたします」
その言葉を聞いて、ノキアはほっとした顔を見せた。
スタンはデュランの態度に腹を立て、地団駄を踏む。
「むきーーーーっ!! なめられたものだすね!! こう見えてもオイラは城の中では…………えーーーーっと、と、とにかくすごいんだす!!」
「ほう、そうか。では、私も安心してミタの剣術を披露することができるわけだ」
「ミ、ミタの剣術? それは……」
スタンはたじろいだが、一度抜いてしまった剣を引くことはできなかった。
「いくぞ!」
デュランの一声と共に、勝負は始まった。
「ひいぃぃぃぃっ!!」
避けようにも避けられず、勝負は一撃だった。ミタの剣術を出すほどのこともなくデュランの峰打ちが脇腹に当たり、スタンはその場にうずくまった。
周囲の人々の大歓声に、道行く人々は、何事かと足を止める。
スタンを探していたブロンドの髪の少女も、その一人であった。
「一体なにがあったの?」
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