29人が本棚に入れています
本棚に追加
2・王女様と入れ替わり
「王女様体験って……あなた、一体?」
ノキアは、いぶかしげにセイラを見た。セイラは、胸を張り自信ありげな態度で言う。
「ああ、言ってなかったわね。わたし、このリザンブルグの王女なの。お城の生活が退屈で退屈で、時々このスタンを用心棒にして、お城を抜け出しているのよね。で、今日もお祭りに便乗して、お城でパーティーがあるの。でも貴族のパーティーってお付き合いも必要だし……わたし、苦手なのよ。で、そこであなたに代わりに行ってもらおうかと……」
「断る」
ノキアは間髪いれずに答え踵を返し、その場を立ち去ろうとするが……。
(……しまった、本当に王女様だとしたら、今の態度は無礼だったか?)
王女に対してあまりに率直で失礼な態度を取ってしまったことに気づき、わずかに顔をしかめる。セイラが力強くノキアの腕を掴んできたので、まずい、と思った。
「そんなぁー! そんなこと言わずに、今日だけでいいから! そ、それにほら、あなたたち、旅人なんでしょ? 今から宿を取ろうと思っても、どこもいっぱいよ? それに比べて、お城はふかふかのベッドとあたたかい食事だし……人助けだと思って、ね?」
てっきり無礼に対して怒られるのかと思って、拍子抜けした。
セイラは、掴んでいる手に力を込めてくる。あまりの熱意にノキアは困り果て、デュランに助けを求めた。
「デュラン、どうしよう……」
「私は、あなたの意志にしたがいますよ。お好きになさってください」
「おまえ……楽しんでいるだろ……」
「いいえ」
デュランの口元が、かすかに上向いていた。
*
一行は、変装の準備を整えるために早速雑貨屋へ向かった。城を抜け出す際に元々変装していたセイラは、ショートヘアのウィッグを脱ぐと、さらりとローズピンクの長く艶やかな髪が背中へと流れ落ちた。姿は町娘風だが、やはりどことなく気品を感じる。
「その、先ほどは失礼しました……」
ノキアは、少し控えめに口を開いた。
「何を?」
「王女に対して無礼なことを言ったのでは……」
セイラはその言葉にクスリと笑って首を振った。
「気にしないで。いつものあなたでいいわ、ノキア。お城ではみんなかしこまってばかりで、窮屈なのよ。あなたみたいに率直な人は、むしろ新鮮で楽しいわ。わたしのことは、ぜひセイラと呼んでちょうだい!」
ノキアは少し戸惑いながらも、セイラの寛大な態度に肩の力が抜けた。
セイラは微笑を浮かべ、自慢げに髪をかき上げている。
その髪色と長さのウィッグを雑貨屋で購入するが、セイラの髪の美しさには敵わないだろうと思った。試着室に二人で入って、衣服を入れ替える。これでノキアは町娘風、セイラは旅人風だ。
「ところで、あなたたち、どこから来たの?」
「それは……」
セイラの問いにノキアが言葉を濁すと、カーテンの向こうからデュランが「西からです」と簡潔に答えてくれた。
「……まあ、いいわ。入れ替わってもらうんだし、不問にする」
セイラは小さくため息をつく。それ以上詮索してこなかったことに、ノキアはほっと胸を撫で下ろした。
セイラは再びショートのウィッグをつけ、念のためメガネも購入した。ノキアもローズピンクのウィッグを着用すると、すっかりセイラの姿になった。
「あらやだー。どこの美少女かと思ったわ。でも、このウィッグはお城に戻ってからにしましょうか。国民に見られると厄介だわ」
セイラは、ウィッグを外したノキアに抱きついて愛でる。
鏡に映った二人は、まるで双子の姉妹のようだ。
セイラに招かれて、リザンブルグ城の裏手にやってきた。いつもここから城を抜け出しているらしい。スタンは、隊長にバレると問題になると言って、本来の持ち場に戻って行った。
「いい? ここからノキアは、王女様だからね」
「わ、わかった……」
覚悟を決めてノキアは購入したウィッグを被り、裏口の扉をそっと開けた。
最初のコメントを投稿しよう!