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ようやくセイラの部屋に辿り着き、ノキアは自分が王女になっていることも忘れてソファに倒れ込んだ。デュランは、別室で待機してもらっている。
「あーっ。もう疲れた……」
「うふふふっ、パーティーは夕方からだから、それまで準備があると思うの。着替えとかお風呂とか……とにかく、侍女が全部やってくれるから、あなたは気楽に構えていてね」
「気楽にって……できるものか。いつかバレるんじゃないかとヒヤヒヤしているのに」
ノキアの心配をよそに、準備は着々と行われた。
部屋に次々と侍女がやってきて、セイラに扮したノキアの世話を焼く。
「湯浴みの時間でございます」
あっという間に浴室へ連れてこられ、侍女がさっさとノキアの服を脱がせていくので、ギョッとした。
「ひ、ひとりでできるからいい!」
「しかし、それではわたくし共が叱られてしまいます」
「い、いい! 今日は、特別に私が許す。責任ももつ」
ノキアは、あまりの出来事に声がひっくり返った。
「左様でございますか。では、あまり時間もございませんので、お早めにお願いいたします」
ようやくひとりになれたノキアは、ゆっくりと広い湯船に浸かる。心地よい温度が、今までの旅の疲れを癒してくれる。このまま眠ってしまいそうだった。
「お城の生活も、貴族の生活も、皆同じか……。セイラも、私と同じ、か……」
ノキアは、雑念を振り払うように、勢いよく顔を洗った。
湯浴みが終わるとマッサージ、次にはメイクとパーティーに着るドレスに着替える。ドレスは柔らかなアイボリーのシルクで、前面には華やかなビーズが施され、流れるような曲線を描く。裾はふわりと広がり、薄いシフォンが重なり軽やかに揺れる。見た目だけは優雅だが、しばらくぶりのコルセットが苦痛だった。
ノキアは、正体がばれないようにと、なるべく口を開かないでいた。
「姫様、今日は随分と無口なんですね。いつもはパーティーなんてって、愚痴ばかりですのに」
侍女が、後ろでネックレスのホックをつけながら優しげに話しかけてきた。無口すぎるのも問題なようだ。
「あ、あの、ちょっと、喉の調子が……」
わざとらしく、ケホケホと咳払いをする。
「まあ、風邪ですか? 今日は早めに就寝なされたほうがよろしいですね」
旅の疲れもあるし、ノキアとしても、そう願いたいところであった。
変装してノキアと名乗るセイラは、王女の友人としてパーティーに招かれることになり、簡単にドレスアップしていた。その傍には友人の用心棒として、デュランがいる。
「わぁ、王女様、似合う似合う。ね、デュランもそう思うよね?」
セイラは嬉しそうに手を叩き、デュランに同意を求めた。
「はい。あなたのそのような姿は、久しぶりです」
優しく微笑むデュランに対し、ノキアは真っ赤になってうつむく。
「う……。このような姿は、もう二度としないと思っていたが……」
「そんなこと言わずにさ、やっぱり女の子だもの。たまにはドレスも着たほうがいいよ」
セイラが、ノキアの手を取り会場へと案内する。
客将扱いであるデュランと下級騎士のスタンは、出入り口の側に立たされ、非常時以外、貴族の傍に行くことは許されなかった。
「姫様もノキア様も、綺麗だすねぇ……」
うっとりしているスタンは、デュランに同意を求めるように言ったが、デュランは無言だった。ただ一心に、ノキアの姿を目で追っていた。
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