3・隣国の王子

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「ちょっと、体調が悪くて……」 「あなたは、元気な姿が一番ですよ。そこがまた魅力的で、僕が魅かれた理由でもあるのですけどね」 「はぁ……」  なんと答えればいいかわからず、ノキアは気のない相槌を返した。 「ところで、正式な婚約の話、考えていただけましたか?」  ノキアは言葉につまったが、先ほどのセイラの態度からして、するつもりはないのだろうと判断した。 「まだ、決めかねています……」 「ふぅ、いつになったらいい返事をいただけるのでしょうか? もう、何十回もその台詞です。リザンとアイゼンの調和を保つためにも、いい話だと思いますが」  ……つまり、政略結婚のようなものか。と、ノキアは思った。  ──セイラも、私と同じなのだ。  ただ私は、そこから逃げて、自由になっただけ……。  無心になっていると、急に会場の明かりが薄暗くなり、音楽が緩やかなテンポに変わった。  何事かと周りを見渡すと、踊っている人々皆、さらに体を密着させて踊っている。  ノキアもまた、王子に体を引き寄せられた。    それを見たデュランが、驚いて剣の柄に手をかける。 「た、ただのダンスだす! 落ち着くだすよーー!」  慌ててスタンが止めたが、さらに続くこの時間に、デュランは手を震わせている。 「お、お嬢様が……お嬢様が……あんな得体の知れない男と……」 「落ち着くだす、デュラン殿ー! 隣国の王子なので、得体は知れてるだすー!」  スタンは慰めにもなっていない言葉を発したが、デュランにとってはどうでもよかった。    しかし、ノキアもこの雰囲気に耐えられなくなり、王子を振り払ってバルコニーの方へ逃げた。 「あらぁ? ノキアと王子は?」  他の男と踊っていたセイラは、二人の姿がないことに気づいた。    バルコニーでは、ノキアと王子のふたりだけだった。かろうじて護衛の目の届く距離ではあるが、なにかあっては遅い距離である。 「セイラ殿、どうしたんだい? こんなところに誘い込むなんて、君もやっとその気になってくれたということかな?」  王子は、ノキアの肩を後ろから抱いた。驚いたノキアは目を見開き、体を強張らせる。    その後ろ向こうでは、デュランが目を光らせ、スタンが止めていた。 「気持ちはわかるだすが、落ち着くだす、デュラン殿ー!」
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