0.プロローグ

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0.プロローグ

 俺は今、羽交い絞め……じゃなく、力強く抱きしめられていて動けない。  逃げられないのは俺の方なのに、捕まえている方が小刻みに震えている。  大丈夫だろうかと気になって、そっと顔だけ動かして見上げる。    薄暗い室内ではランプの光だけがぼんやりと辺りを照らしているというのに、ぼうっと照らされた相手の顔は悲しいほどに綺麗だ。  +++  気づいた時はベッドの上だった。  俺はぼんやりと目を開けて、状況確認をするためにゆっくりと身体を起こす。  ちょうどそのタイミングで俺の様子を見に来たコイツに俺はすぽりと捕らわれてしまい、今に至る。   「……離さない」 「いや、だから苦しい……ぐっ」  文句を言ってやろうと、必死に目線で訴える。  ……コイツと目が合うとどうしても放っておけなくて、悲しませたくないと思ってしまう。  いつの間にそんな風になったのだろうか?  憂いを帯びた暗緑色の瞳に、意識が全て吸い込まれてしまいそうだ。 「はあ……分かったから。無理やり捕まえるなって。俺は逃げも隠れもしない」  諦めて瞳を閉じると、掴まれていた腕から力が抜けてすぐに唇が塞がれる。  キスを許したつもりはないのに、ある時ふいにキスをされてから相手の感情が高ぶる度にされるようになってしまった。  最初は抵抗していたけどキスを拒否するとあまりにも悲しい顔をするから……外国の挨拶だと自分に言い聞かせて受け入れるしかない。    普段のコイツはどちらかと言えば一歩引いている感じなのに、スイッチが入ると急に積極的になる気がする。  コイツの全てを知ってしまった今、この執着も分からなくはないが。  俺にとっては少し……いや、かなり重い。 「んーっ!」  息継ぎできず苦しくなってバシバシと背中を叩くと、(ようや)く唇を開放してくれる。  だが瞬きもせずにじっと俺を見つめてくる瞳は、まだまだ不安げに揺れている。 「……悪かったよ。心配かけてごめんな。でも、俺はもう大丈夫だから」 「……本当に?」 「うん。だからその……もう少し力を抜いてくれると助かるんだけど」  コイツの力が強すぎて、俺は身じろぎ一つできない。  俺の意識が戻らないせいで心配はかけたけど、ここまで取り乱すとは思わなかった。   「……」 「そんなにぺたぺた触って確かめるなって。くすぐったい」 「良かった……」  俺の無事を確認するように、今度は顔をなぞるように触れられる。  その手はゆっくりと身体のラインをなぞっていき、丹念に触れてくる。 「なあ……この確認、いる?」 「大事」 「はぁ……怪我した訳じゃないんだし、そんなに触られても……っ」  くすぐったさと同時に、じわじわと違う感覚が生まれてくるのが恥ずかしい。  本当に、どうしてこうなったんだろう?  このゲームって全年齢のはずじゃ……。  俺のツッコミを聞いてくれる人は、この世界にはいない。  コイツに(ほだ)されてしまったせいで、強く拒絶することもできない。   「嫌?」 「嫌って訳じゃないけど……」  一応恋愛経験ゼロって訳じゃないが、相手は女の子だけだ。  しかも、付き合っていてもつまらないという理由であっさり振られてしまった。  それ以来、恋人もいなかったっていうのに。  目の前のコイツはキレイな顔をしているが、女の子ではない。イケメンだ。  つまり、男だ。  これは、どういう状態なんだろうか?  俺は一体何をされている? 誰か正解を教えて欲しい。    顔中触れられながら、まぶたや鼻先に落とされるキス。  そしてまた唇へ。これの繰り返しだ。  俺の身体に触れている手も腰をくすぐったりするもんだから、次第にぞわぞわしてきて身体がぶるりと震えた。 「これ……いつまで続く訳?」 「……」 「都合の悪い時だけだんまりかよ……あぁ、だからもうキスばっかりするなっ。そっちも……触るなっ、て……」 「そっちって……どっち?」  クスリと笑う声がする。耳の側で囁かれると、妙な声をあげそうになる。  いつもは素知らぬフリをしてツンとしているくせに、なんで俺の前だけ表情を露わにしてくるのやら。  後悔しても遅いのは分かっているけど。俺、これからどうなるんだろう?
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