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4.見知らぬ場所
どうやら寝落ちしていたらしい。
しかし、テーブルの前で眠った気がしていたけどいつの間にベッドに移動していたのだろう?
まぶたを擦りながらゆっくりと身体を起こしたところで異変に気付く。
目に飛び込んできたのは、本棚。
こんな本棚、部屋に置いてあったか?
「え、俺まだ寝ぼけて……」
そこら辺に転がっているはずのスマホを探すが、見つからない。
コンセントもなければ、充電コードもない。
寝落ちする直前までゲームもしていたはずなのに、ゲーム機すらない。
見覚えのない部屋で起きた夢でも見てるのか?
ここはセオリー通りに頬をつねってみた。
「普通に……痛い」
体温が急激に下がるのが分かる。この状況を受け入れられず、少しずつ血の気が引いてきた。
ざわつく心を必死に抑えながら改めてベッドを見ると、簡素な木のベッドに白の布団が敷いてあるだけだ。
電気機器類は何もないように見える。
室内は薄暗く、テレビもパソコンも見当たらない。
ベッドの上だけじゃなく、部屋全体に電気機器が一つもない。こんなことって……よくある異世界転生みたいな……。
「え……まさか、マジで異世界転生? 俺、死んだのか……?」
眠ったと思ったら実は死んじゃってて、別世界に飛ばされた?
慌ててベッドから飛び降りて、裸足のまま窓の側まで駆け寄る。
見覚えのない白のカーテンを開け放つと、陽の光が飛び込んできた。
「ここ……どこだよ……」
目の前に広がるのは、森だ。
鳥の声は聞こえるが、美しい森が広がっているばかりで車や道路も見当たらない。
俺の頭がおかしくなっていないのなら、ここは俺が住んでいる場所とは全く違う。
「寝ている間に誘拐されて、どこか知らない森の小屋にでも監禁されたとか? だとしたら、ベッドで寝てるのはおかしいか」
冷静になれと自分に言い聞かせても、冷や汗が止まらない。
俺はどうなってしまったのだろう?
とにかく少しでもヒントが欲しくて部屋を見回すと、鏡があった。
異世界転生だとしたら、見覚えのない誰かの顔が映り込む可能性もあるはずだけど……。
「……俺の顔だ。別人になった訳じゃないのか? 記憶は……いや、今まで生きてきた俺の記憶だけだよな」
混乱する頭で考えて正しいかも分からないけど、ゲームをして寝落ちしたところまでで記憶は途切れている。
その他、今まで暮らしてきたことは普通に覚えているし記憶に問題はなさそうだ。
「これはつまりどういうことなんだ……?」
混乱したまま部屋の中で立ち尽くしていると、ドンドンと扉を叩く音が聞こえてきた。
どうやら森の中の小屋にいるみたいだから、鍵なんてかかってないよな。
生きた心地がしないままだというのに、扉は無遠慮に叩き続けられている。
「ハルー! まだ寝てるの? 今日は種の成長を見てもらう日だよ。忘れちゃった? 精霊様たち、みんな待ってるよ?」
俺の名前を呼ぶ甘ったるい声がする。種の成長って何のことだ?
しかも、精霊様たちって……そんなさっきやってたラブスピみたいな……。
「ラブスピ……? え、まさか。俺、ラブスピの世界にいる……とか? いや、まさかな」
俺が戸惑ってると、開けるよー? という言葉と共に扉が開かれる。
中に入ってきたのは、サラサラのブロンドショート髪で茶色の愛らしい瞳の男? って、コイツはまさか……?
「……一応確認だけど、お名前は?」
「何、その反応! 酷いよ! ボクはリュカティオ。カティって呼んでいいよって言ったのに。ハルったらボクのこと嫌いってホント?」
男のくせにリュカティオ……言いづらいから、やっぱカティでいいか。
カティは、うるうると瞳を潤ませてくる。
泣かせてるみたいで俺が悪い気がしてくるし。さっさと会話を終わらせたくなってきた。
しっかし……相手が名乗った名前もまんま俺が名付けたラブスピの主人公だし。見た目も妹のメモの通り作った主人公まんまだ。
信じられないけど……俺は、ラブスピの世界に迷い込んでしまったらしい。
「好きとか嫌いとか言われても困るんだけど……」
今の状況も整理しきれてないというのに、俺は精霊様に呼ばれているらしい。
呼ばれてるって言われても何をどうすればいいのか全く分からない。
どうやって言い訳をすればいいだろう? 俺がラブスピの世界に異世界転生したと仮定して。
とにかくこの場を切り抜ける方法を、混乱する頭で必死に考える。
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