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暴力•詐欺グループの一団は、内部潜入していた彼女の活躍もあって、まるっとするっと根こそぎ捕まった。奪われたお金の送金先まで抑えていたので、被害者には幾分かお金が返ってくるという。
ちなみに、あのクソまずクッキーは、あの日あった大規模殺人事件の計画から僕のようなバイトを参加させないためのものだったらしい。クッキーを食べていなかったら、今ごろ僕はお爺ちゃんに顔向けできなかっただろう。
お爺ちゃんからは、しこたま泣かれた。だけど、僕の無事を喜んでくれて、沢山抱きしめてもらった。ひょっとしたら僕の幸運は、理想的なお爺ちゃんの存在だけでかなりの総量を占めているのかもしれない。
都合の良い天使が現れて、僕を全ての悩みから救ってくれることはなかった。つまり、僕にもしっかりと前科はついたし、事業所はクビ。お爺ちゃんの手術代になるような大金が手に入るようなこともなかった。
だけど、大金の入りそうなバイトは見つかった。
「なぁ、才能あると思うんだ。お前、また詐欺グループに入らないか?」
「はい?」
「私は少しデキる女過ぎて後半は警戒されてしまったんだ。その点、君は一般人だが勇気がある」
「は、はぁ」
「潜入捜査官、悪くはない仕事だぞ」
僕はまた深夜にゴソゴソする仕事で、お金を稼ぐことになりそうだ。
仕事は失ったが、そのことでバイトは見つかった。
「これが糾える縄なのかな……」
「禍福は糾える縄のごとし――災禍と幸運はよりあった縄のように交互に現れる表裏一体のもの。すなわち、災いが転じて福となり、福が転じて災いとなることがあるもので、人の知恵で計り知ることはできない、か」
僕はお姉さんの方を見る。
「えっ、そういう意味なんですか?」
「そうだぞ」
僕は多分、お爺ちゃんの説明を半分くらいしか聞いていなかったのだ。
「だが、より多くの幸福がある未来を目指して佳い行いをすることを捨ててはならない。人が遭ったことをどう解釈するかと、悲劇に遭う確率自体を減らすことは別物だからな」
彼女は犯罪組織への潜入という危険を犯してでも守りたい信念があるという。
「危なくないんですか?」
「危ないさ」
彼女は腕を捲って僕に古傷を見せた。
「それでも、一つでも幸せな未来を若者に残したい。だから私は、平和な社会を作る為に戦うんだ」
崇高な理念を持って理想を実現する為に敵を薙ぎ払う。
翼はなくても、彼女は立派な戦う天使だと思った。
ーーおわり
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