10. あの子は

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 展示スペースの奥の小部屋に、一寸盤と駒のセットが置いてあった。 「ここでやりましょう」  要はさっさと椅子に座ると、駒箱を開けて準備を始めだした。  エイジたちの方を振り返ると、三人とも苦笑している。待たせるのは悪いけど、ここまで来たら引っ込みがつかない。  私も着席して駒を並べる。盤上を見ると、王が残っている。要の方には既に玉が置かれていた。単にこだわりがないだけか、一応、私の方が年上だから譲ってくれたのか。……よく考えたら私の方が百歳以上年上なんだっけ。 「よろしくお願いします」  準備が整うとすぐさま対局が始まった。要が先手。  持ち時間は各自十分の早指し戦。これも電脳のお陰で対局時計が脳内に表示される。便利だ。  序盤は飛ばしたいところだけど、まだまだ現代定跡の知識が足りないので慎重に行く……。  三十手ほど進んだところで異変が起きた。  脳内の対局時計に、ノイズのようなものが一瞬入った。  要の顔を見ると、彼も少し驚いているようだった。 「大丈夫だ。私たちがついている」  いつの間にかエイジたちが私と要を囲むように立っていた。 「招かざる客、ですね」と土々呂城さん。「この記念館だけがハッキングされてるみたいやわ」 「この気配は……!」  エイジの声にいつになく緊張感がある。 「やあ、邪魔をしてすまない」  男の声。  その声は脳に直接響いてきた。 「アポなしで失礼かとは思ったが、土々呂城と小金井の代表者がここにそろっているようなのでな」  男性の姿のイメージが浮かぶ。でも、顔ははっきりとは認識できない。 「じつは「水」と「木」も呼んでいる」 「そら都合が良いですわ。水の方には聞きたいことがありましたんや」  土々呂城さんが応える。 「その件でな。本日の鴨川氾濫事件だが、お前たちは中・四国連合の仕業と考えているだろうが、我々も調査したところ、そう単純な話ではないようなんだ」 「話を複雑にしに来はったってことですか?」 「そう尖るな。私は中立的な立場だよ」  男の声は少し笑ったようだった。
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