01. 20XX年度奨励会入会試験

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「待ちぃや!」  私は泣き顔を見られたくなくて、ハンカチで顔を隠した。 「逃げる気?」 「……帰るんだけど」 「先生に挨拶もせんと」 「…………あ、あとで電話して謝るもん」  それはやるとしても、なんで追いかけて来たんだこいつは? 一年半前のあの負けをそんなに恨んでいるのか? 「……さっきはちょっと言い過ぎたから……。ごめん」  杏はそう言って頭を少し下げた。 「あ、あんなことであんたに将棋やめられたら、夢見が悪いからな……」 「……あ、そう……なんだ」  私は力が抜けた。 「あたし、あの準決勝の負けがめっちゃ悔しくてな……。今でも夢に見るねんて。だから、ついやり過ぎてしまったんや」  杏の言うことも分からないでもない。  多分、記憶力が良いから、いつまでも鮮明に思い出しちゃうんだろうけど、さすがに私を恨むのは筋違いじゃないか? 「それだけ言いに来た。だから、気ぃつけて帰りや」  なんか一方的に謝られて、向こうはもうすっきりしている感じだし、私はさっきまでの怒りのやり場に困ってしまう。  でも、泣かされたままでは終われない……。 「……来年リベンジする」 「え……? ……へえ、ええやんそれ。でも、私は先に行ってるで」 「すぐ追いつくし……!」  私は睨みつけているのに、なんでこいつは嬉しそうな顔してるんだ? 「約束やで」
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