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俺の息子の悟がもう中学三年生だ。
中学生になってから親に生意気な口を利くようになった。
俺と妻がどんな思いで育てたのか、おまえにはわからないだろうな。
夕飯を食べ終わってゆったりくつろいでいた。
「お父さん、テレビが見れないから、そこどいて」
「わかった。父さんの横に来なさい」
俺は悟と並んでテレビを見ることにした。まだ中学生なのに一人の大人と思えるほど座高が高い。
俺と悟はミステリー番組を見ていた。
「あっ、この人が犯人だね」
「なんでわかったんだ?」
悟は俺を見てにっこり笑う。まだあどけなさが残っていてほっとした。
「この人は俳優の中でも有名な人だから、ちょこっと出るだけで終わるはずがないよ。絶対犯人だよ」
「そういうのがわかるとミステリー番組がつまらなくなりそうだな」
最後まで見ると悟が言った男が本当に犯人で驚いた。
それから十年が経った。悟は大学を卒業すると、芸能事務所に所属した。
どうやら俳優になりたいようだ。最初はそんなこと無理だと反対したが、悟が本気で俺も妻も応援することになった。
悟が出演するミステリー番組が始まった。俺も妻も悟が画面に登場すると笑顔で盛大な拍手を送った。
妻が俺に訊いた。
「この事件の犯人は誰だと思う?」
俺は腕を組んで勿体ぶって声に出した。
「悟に決まっとる。あいつがちょっとした役で終わるわけがない。俺は信じてる」
番組がクライマックスになり犯人が明かされた。俺の予想は的中して悟が犯人だった。
俺は妻と手を取り合って喜んだ。一生懸命に育てた甲斐があったと思った瞬間だった。
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