迷える仔羊

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「これ、本気でやった?」 「やりましたけど」 あれから1週間。青山に渡された過去問は初日で挫折し、今日まで存在すら忘れていた。だって、分からないものは分からない。プライドを捨てて開き直る。そんな私を見て、青山は呆れたように溜息を吐いた。 「先生って私のこと嫌いですよね」 「嫌いじゃないよ。可愛くないなとは思うけど」 さっきまで教室で“クールなアイドル”をしていた人間とは別人のようだ。私が醸し出す嫌悪感を察しているのか化けの皮は完全に剥がれている。 採点をする青山を待つ間、窓の外を見ていたら部活中の旭の姿が見えた。手を叩いて楽しそうに笑っている。練習そっちのけで誰が一番サッカーボールを高く蹴り上げられるかを競っているらしい。 旭の番が来る。爪先で掬い上げられたボールは天を撃ち抜くように高く飛んだ。視線を戻したら、こちらを見ていた旭と目が合った。 「それより」 「え?」 「英語の勉強ちゃんとしてる?気乗りしないのは分かるけど、単語は繰り返し覚えて、長文は毎日読んで慣れないといつまで経っても克服できないよ」 急にまともなことを言われたので戸惑う。しかも、図星なので何も言い返せない。 「だって、参考書とか見てもよく分からないし。聞ける友達もいません」 「俺がいる」 今までこちらを見向きもしなかった青山が突然まっすぐな眼差しを向けてくるので思わず逸らした。 「これ解いて。基礎の基礎だからできるだろ」 「今?」 「課題にしたらどうせ空白だらけで持ってくるから」 「私のこと可愛くないのに勉強は教えてくれるんですね」 8割嫌味、2割単純な疑問として尋ねる。 「いい大学行きたいんだろ?やる気がある子には教えるよ。それに、成績優秀の望月が英語だけ悪いと俺の面目が立たない」 「言わぬが花って言葉、知ってますか?」 腹は立つけど、何もぶら下がっていない無骨な言葉が私の気を軽くした。変に優しい言葉をかけられるよりずっといい。
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