迷える仔羊

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新学期が始まって3ヶ月。温かい春の陽射しが畳まれ、夏の到来へ向けて梅雨が幕を開けた。窓の外に広がる空は分厚い雲で隙間なく埋まり、今にも崩れてしまいそう。 「窓の外に何か面白いものでもありますか?」 声に釣られて前を見ると、英文が連なる黒板を背にした青山と目が合った。「すいません」と声に抑揚をつけずに謝ると、眼鏡の向こうにある冷ややかな視線が無言で逸れる。 愛想の欠片もない。 窓の外に何か面白いものでもありますか?って、アンタの単調な授業より窓に広がる曇天の方が余程面白い。そう言ってやりたい。 青山はこの春、東高に来た新任の英語教師だ。女子たちによると、今テレビで人気を集めているあの“クールなアイドル”に似ているらしい。Sッ気があっていいとか、あの眼鏡が色っぽいとか言っている。 だけど、私にはあれのどこがいいのかさっぱり分からない。無表情だし無愛想だし何を考えているのか分からなくて薄気味悪い。 でも、会うのは授業の時だけだし。 そう割り切っていたのに、新学期が開けて僅か1週間で担任が体調不良でやむなく休養することになり、代打として青山がこの2年1組の担任をすることになってしまったのだ。勘弁してほしい。
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