迷える仔羊

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放課後、いつも通り図書室で勉強を終えて帰ろうとした時だった。突然、背後から腕を掴まれた。包帯を巻いている部分を強く握られ、走る痛みに息を飲んで振り向いた。 「なんで連絡返してくんねえの?」 見覚えのあるようなないような男の顔。誰?と言いかけて思い出す。以前、一度部屋に行った時に暴力紛いのことをされてから遠ざけていた先輩だ。 「今日、ウチ来いよ」 「用事があるので」 「じゃあ、その辺の空き教室でいいや」 「は?」 込み上げる嫌悪感のまま掴まれた腕を払ったら髪を鷲掴みにして上を向かされる。 「お前、あんまナメた態度取ってっと、」 肩をいからせるほどの威勢の良さが急に針を刺したようにシュウッと萎んだ。その視線の先を辿ったのが運の尽きだった。走って逃げる選択が頭を過ぎったけれど、面目を保つために諦めた。 「望月さんに用があるのですが」 青山が言う。静かな声だったけれど、強い眼差しに気圧されたのか先輩はすぐに立ち去った。私は静かに息を吐き、青山に向き直る。 「ありがとうございました」 青山に礼を言うのは不本意だけど、助けてもらったので体裁だけでも整えておく。サヨウナラ、と足早に立ち去ろうとしたら引き止められた。そのまま職員室に連れて行かれる。 「何ですか」 「なんか困ってることとかないですか」 「困ってること?」 「確か望月さんは一人暮らしですよね。生活してる上で困ってることとかないですか」 気怠さが一気に肩をずしりと重くした。前の担任から引き継ぎされているとは思っていたけれど、私のプライバシーを青山に知られているのはなんか嫌だ。ましてや過去のことまで掘り起こされているのならば堪ったもんじゃない。
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