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「どこまで知ってるんですか」
「同居していたおばあさまが亡くなってから一人暮らしをしてるとだけ」
「⋯」
「何かあったら相談してください」
青山の言葉に鼻で笑いそうになった。
誰もが不遇な人間を前にすると後ろめたさを感じて優しくしたくなる。自分の発言に責任も持てないくせに。
第一、青山と私は教師と生徒という刹那的な関係で、卒業したら二度と顔を合わせることもないのだから助けてもらう筋合いなんてない。
「いつもこんな時間まで図書室で勉強してるんですか」
「え?」
「前に見かけたことあるから熱心だなと思って」
「良い大学行って良い企業に就職したいので」
「へえ」
「先生もそれなりに生徒に関心あるんですね」
質問しておいて釣れない返事をされたのが気に障ったので嫌味を込めて言ったら青山は薄く笑った。
「⋯なに?」
「別に」
青山は素っ気なく答えながらパソコンを弄って私のこれまでの成績を画面に出した。
「確かに望月さんは成績優秀だし、この前の模試も良かったです」
「まあ」
「英語が壊滅的だけど」
エイゴガカイメツテキダケド。
ぼそりと呟かれた言葉に耳を疑った。草陰から飛んできた矢に脳天を突き刺されたような衝撃。唖然としていたら、いつのまにか模試の過去問を解いて持ってくる流れになっていた。
「それもさっきの男子ですか?」
コピー機から吐き出される大量の紙から視線を上げると、青山が「ソレ」と腕の包帯を顎でしゃくる。
「それを聞いて何になるんですか」
「自分が受け持つ生徒の素行に問題がないか把握しておきたいだけだよ」
意図して敬語を外しているのが分かった。私のことが気に入らないのだ。これでハッキリした。青山は私のことが嫌いだし、私はそれ以上に青山が嫌いだ。
「先生に迷惑はかけないのでご心配なさらず」
思いっきりつっけんどんに答えてやった。差し出されたプリントを奪うように受け取り、背を向ける。
「若気の至りとはいえ程々に」
背後から追いかけてきた声を遮断するようにぴしゃりとドアを閉めた。
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