迷える仔羊

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旭とは小学生の時にこの町に引っ越してきてから家が近いのをキッカケに話すようになった。こういった関係を幼馴染と呼ぶのかもしれないけれど、私たちには大袈裟すぎる。 小学生の時はよく一緒にいた。放課後は旭の家で宿題をして、おやつを食べて、ゲームをして遊んだ。だけど、中学生に上がるとそれもなくなった。明るくて社交的な旭はクラスの華やかな人たちが集まるコミュニティに属したし、私はひとりで居た。何もおかしくはない。自然のことだった。 ただ一緒にはしゃいでいるだけで友達になれた小学生と趣味や性格、思考の一致で友達を作る中学生は全く別の生きものなのだから。 「これだろ?」 旭はずらりと並んだスイーツからシュークリームをひとつ取り、得意げになる。 「澪、いっつも無難な物選ぶもんな」 「よく覚えてるね」 「忘れるわけねえじゃん」 コンビニの袋を提げて2人で夜道を歩く。シュークリームは旭が買ってくれた。私の断りを半ば強引に押し切って。 2人きりで話すのは久しぶりだった。同じクラスではあるものの接点と言えば、図書室で勉強をした帰りに部活終わりの旭と鉢合わせたら一緒に帰るくらい。これでもほとんど交流がなかった中学生の頃に比べれば話している方だ。 「あのさ」 他愛もない話の間に訪れた沈黙を旭が破る。先程までの軽快な口調から打って変わり、強張った声だった。 「その腕、どうしたの」 「転んだ」 腑に落ちない様子の旭から視線を逸らす。それ以上踏み込んでこないで、と態度で示す。重い沈黙のまま私のマンションに着いた。 「送ってくれてありがとう。シュークリームも」 背を向けたら腕を掴まれた。部屋着姿で髪にワックスがついていない旭はいつもより幼くて、なんだか懐かしかった。チカチカと明滅する街灯の下、浮き出た喉仏が上下する。 「あんまそういう格好して夜道歩くなよ」 何かを飲み込んだ後のように歯切れ悪く旭が言う。私は黙ってそれに背を向けた。 あの頃は旭になんでも話していた気がする。旭は私の心の拠り所で、友達と呼ぶには足りないくらい大きな存在だった。旭がいたらそれで良かった。 偶にあの頃を懐かしく思う。 だけど、戻りたいとは思わない。
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