小さな希望の庭

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母が亡くなり、私は田舎の祖父の家に引っ越してきた。 新しい生活に馴染むのは思ったより難しく、都会の友達と離れたこともあって、どこかぽっかりと穴が空いたような気持ちだった。 祖父は優しい人だけど、昔から口数が少なく、寂しげな表情を浮かべることが多い。 ある日、私は祖父の庭を歩いていると、温室の裏側で小さな枯れかけた植物たちがほったらかしにされているのを見つけた。 色褪せた葉っぱや土に埋もれた茎を見て、ふと「これをどうにかしたい」という気持ちが湧いてきた。 次の日から、私はその植物たちの世話を始めた。最初はどうしていいか分からず、土を触る手もぎこちない。 でも、少しずつ祖父が育て方を教えてくれた。 水のやり方や日当たりの調整、風通しの重要さ…。 植物ってただ植えれば育つものだと思っていたけど、こんなにも気を配らなければいけないとは知らなかった。 「植物ってね、手をかけると応えてくれるんだよ」 と祖父がぽつりと教えてくれたその言葉が、私の心に静かに響いた。 少しずつ元気を取り戻していく葉っぱや花を見ていると、不思議と私自身も元気をもらっている気がした。 植物たちと一緒に、私の心にも小さな希望が芽生え始めていたのかもしれない。 やがて村の人たちとも少しずつ話す機会が増え、友達もできた。 寂しさを抱える人や、昔の夢を忘れていた人、私と同じように何かを「育てたい」と感じている人がいることを知った。彼らと関わる中で、私も少しずつ前を向いていけるようになった。 庭の植物たちが元気に育つように、私もまた、時間と手間をかけて心を育てていこうと思う。
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