3人が本棚に入れています
本棚に追加
まさかの発言に、目が見開く。
夫が……アプリに興味を持った?
私は言われるがまま、アプリの画面を開いて夫に見せた。
「あれ、なんか泣いてるぞ?」
「え、嘘? あ、本当だ。お腹が空いてるみたい」
ミルクをあげるボタンをタップし、大和の泣き顔は笑顔に変わった。
この数時間で、大和の考えていることは大体理解できた気がする。
夫は大和が泣き止む様を見て、感心するように声を漏らした。
「へぇー……確かに、本当に子育てしている気になれるな」
「そうなの。でも……ごめんなさい。実生活をおざなりにしてしまって……」
「いや、さっきはすまなかった。君の気持ちを考えてあげられてなかった。良かったら、俺も一緒にこのゲームをやっていいかい?」
夫も一緒に、大和を育ててくれる?
私は涙目になりながら「もちろん」と答えた。
久しぶりに、夫の柔らかな表情を見た気がする……。
「おい、次は何だか眠そうにしてるぞ?」
夫の声で、私もスマホ画面に視線を移した。
眠そうにしている時は、マイクに向かって子守唄を歌う。
そうすると大和のうとうとした目は完全に閉じ、スースーという寝息を立てるのだ。
「すごいなぁ。子守唄も届くのか」
「そうなの。本当に育てている気になるでしょ」
「ああ、良いアプリを見つけたな」
「あなたもダウンロードしてみたら?」
柔らかかった夫の表情が、急に真顔になった。
立ち上がってトイレに向かうその前に、「一緒に育てないと意味ないだろ」と言い残す。
その言葉がすごく嬉しくて……思わずニヤけてしまった。
ああ……成長ゲームを見つけて、本当に良かった。
停滞していた夫婦の関係性も、より深めることができそうだ。
その日を境に、夫は成長ゲームのことばかり話すようになった。
「なあ、また大和がグズってるぞ。どうしたらいいんだ?」
「ちょっと待って、今炒め物してる途中だから手が離せないの」
「あ、コマンドが出てきた! お風呂に入れるが正解か?」
「あなたが考えてやっていいわよ」
一生懸命にフライパンを振っている中、夫はそんなの関係なしに声を飛ばしてくる。
人任せにした私にブツブツ言いながらも、コマンドを選択しているみたいだった。
「あれ? やっぱりお風呂入りたくないみたいだぞー」
「え、どうしてー?」
「なんか、嫌そうな顔してるんだ。あ、またコマンドが出てきた」
「なんてー?」
「ミルクをあげる、子守唄を歌う、オムツを替える、お風呂に入れる」
「お風呂のコマンドがあるなら、そうすれば?」
夫は私の言った通り、もう一度お風呂に入れるを選択したみたいだ。
苦笑いしながら「まあ、綺麗にしてあげたいもんな」と呟いている。
キッチンからはアプリの画面は見られない。
どうなったか聞いてみる。
「どうー? お風呂入ってるー?」
「ああ、なんか嫌そうな顔してるけど、入ってくれてるよ」
「お風呂嫌いなのね、大和は」
些細なことでも笑い合える。
大和が、冷えつつあった夫婦の絆を、もう一度結んでくれた……。
最初のコメントを投稿しよう!