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――成長ゲームを始めてから、五年の月日が流れた。
画面の中の大和は五歳。
すっかり言葉も話すようになって、本当の子供を育てているという感覚は当たり前になっている。
「ったく、大和のやつ。また風呂入るの嫌がってるよ」
「お風呂嫌いなところ、あなたとは正反対ね」
「いつも無理矢理入れてるけど、たまには入れないっていうのもありかな」
「どうでしょう……一回でも許したら、当たり前になっちゃうわよね」
「子育てって、難しいな……」
子育ての大変さを痛感する毎日。
たとえゲームの中だとしても、私たちは真剣に向き合っていた。
二人で相談しながら、時に喧嘩しつつ、笑い合いながら……大和が大きくなっていく過程を楽しんでいる。
そんな毎日の中で……。
奇跡が起きた。
「あなた、できたみたい……」
「何ができたんだ?」
「……赤ちゃんよ」
スーツを脱いでいる途中だった夫は、私のことを綺麗に二度見した。
目をまん丸にさせながら、「本当か?」と聞く。
「本当よ、ほら……」
診断書を、夫に見せる。
内容が目に入ると、夫の驚愕した表情は次第に崩れて……くしゃくしゃな顔に変わった。
そして、私のことを優しく抱きしめてくれた。
「良かった……本当に良かった……」
耳元で鳴る、鼻水を啜る音。
私も泣いている。
辛かった時期が、フラッシュバックされる。
あの時……上手くいかなくて、それは愛の距離まで離れたような、殺伐とした夫婦生活だった。
ずっと幸せに飢えていただろう。
そんな私たちを豊かにしてくれたのは、間違いなく大和だ。
大和が、私たち夫婦に足りなかった前向きな気持ち、そして夫婦の愛を取り戻してくれた。
このお腹の子を産んでも、しっかり育てあげられる自信がある。
大和が子育てを教えてくれたから。
その夜は、二人で大和との思い出を語り合った。
話は尽きずに、いつもだったらとっくに眠りについている時間でさえも、お酒と共に涙を流しながらゆったりと過ごす。
大和との約五年間を振り返り、そして……決断する。
……その日、私たちは成長ゲームのデータを消した。
* * *
それから六年の時が流れ……。
「こら、琴音! お風呂入りなさい!」
「嫌だよー! めんどくさいんだもん!」
「体キレイキレイしないと! 学校のみんなから嫌われちゃうよ!」
「えー、わかったよー」
嫌々ながらも、一人でお風呂に入りにいく我が子。
その子は待望の女の子だった。出産のときは死ぬほど痛かったけど、今はこの子のためなら死ねるとも思える。
名前は琴音と名付けた。
琴音はとにかく活発な子で、ワガママなところも多少はあるけど……順調にすくすくと育ってくれた。
小学一年生になった琴音は外で遊ぶのが大好きで、よく公園を走り回っている。
高齢出産は大変だと周りから言われていたけど、成長ゲームの経験のおかげか、全く苦労している感覚はなかった。
育児に慣れていたといえば言い過ぎかもしれないけど、それでも大半のことは成長ゲームで学んでいる。
子育てが辛いなんてあり得ない。
毎日が幸せ。
それを与えてくれたのは琴音と、そして……大和だ。
目に見える琴音、そして心の中に存在している大和。この子たちはいつまでも、私たちの大事な我が子であることは間違いないだろう……。
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