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01.やっぱりそれはあのときの
仕事帰りの佳菜子の目に飛び込んできたのは『天使のオムライス』という文字だった。
帰り道のファミレスの前ではためく『天使のオムライス』との文字の入ったのぼり旗。
慣れないパート先からの帰り道、佳菜子は自分が見間違いしたのかともう一度、ファミレスののぼり旗を眺める。けど、間違いようがなかった。やっぱり『復活! 天使のオムライス』との文字。そればかりか、その文字の下にはオムライスの画像も。
そんなのぼり旗がファミレスの敷地と歩道の境目に等間隔で並び、夕方の風を受けていっせいに揺れていた。強くはないけれど、弱くもない、季節の変わり目に吹く風。
ファミレスのそばを通り過ぎながら、佳菜子はのぼり旗に印刷されたオムライスの画像をそっと探る。やっぱりそれはあのときの『天使のオムライス』そのもの。ソースのかけ方に特徴がある。
黄色い半月の形をしたオムライス。その上に茶色いデミグラスソースがかけてあり、さらにそのデミグラスソースの上に天使の翼が片方ぶん、ホワイトソースを使って大きく描いてあるのがその特徴。
しかも『天使のオムライス』を二つ頼めば、ひとつずつ左右の羽根が左右対称に描かれる。つまりカップルや親子で『天使のオムライス」を頼み、運ばれてきた二つのオムライスの皿を並べると、天使が羽根を大きく広げている姿が現れるというわけである。
そのアイデアも十数年前の佳菜子が出したものだった。その頃にも話題にはなったけれど、今のように「映え」という言葉のなかった頃の話。だからファミレス側もいま、SNSで映えを意識して復活させたのだろう。
佳菜子はそう推測しながらファミレスの側を通り過ぎる。胸の奥にチクチクとした痛みと、思い出したくもない記憶の断片を抱えて。あの『天使のオムライス』が復活したのを知ってしまったのも、いつも通らないところを行き来しているからだろうか。
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