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02.ほんの少しだけ意識を
佳菜子が普段、パートで働いているのはレインキャッチャーというちょっと変わった名前のカフェ。けどいま、その店のマスターは東京で研修を受けるからと一週間ものあいだ店を休業にしている。
そのあいだ、佳菜子は他のパートをすることになった。それでいつもは通らないこの道を今週は毎日行き帰りしている。
今朝、佳菜子がこのファミレスを通りかかったとき、この『天使のオムライス』ののぼり旗を見た覚えはない。だから昼間に働いているあいだに設置されたのだろう。
ということは、明日も明後日もそののぼり旗を目にしてしまうことになる。いっそのこと、通勤路を少し変えようか。そんなことさえ自分の家に向かう佳菜子の頭に浮かんだ。けど、そのためだけにわざわざ通勤路を変えてしまうのもおかしな話だ。
でも考えてみれば、あの道を通勤するのも今週だけ。ファミレスの前を通り過ぎるのもわずかな時間だし、あのことはもう十数年も昔の話。だから、ほんの少しだけ意識を他に向ければいいだけ。
佳菜子は自分をそう納得させた。
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